日本人が失った富「デフレ30年」の何とも重い犠牲 GDP世界3位でも"1人当たり"28位に後退の意味

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背景には、海外にはない「終身雇用制」があり、大学進学率も高く、高校や大学を卒業さえすれば、「新卒一括採用」によって、特別な知識もキャリアも持たない人々が、働く場を提供されてきた。ビジネス上の知識やキャリアは、企業が提供してくれた。

しかしその反面で、新卒一括採用のスキームに乗れなかった人、あるいは途中でリタイアしてしまった人は、貧困に陥りがちだった。平均給与は、この30年でほとんど上がらず、その一方で終身雇用制の恩恵を受けた60代、70代、80代の平均貯蓄額は、今の30代、40代、50代に比べると極めて高い。こうした現実を、数字で見てみると次のようになる。

平均給与……国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1990年の平均給与は425万円(1年勤続者)、その後平均給与はしばらく上昇するものの1997年の467万円(同)をピークに下落し始める。30年後の2020年の平均給与は433万円(同)。30年も経過しているにもかかわらず、わずか8万円しか増えていない。しかも、いまだに下落傾向が続いている。平均433万円の内訳をみると年収400万円以下の人は55.1%にも達する。

平均貯蓄……1990年代までは「家計調査」の「貯蓄動向調査」のデータしかないため、一概には比較できないのだが、2002年には1688万円(2人以上の世帯、総務省統計局「家計調査」)だったのが、2021年には1880万円(同)。日本全体がデフレ経済だったためとはいえ、20年間でわずか192万円しか貯蓄額が増えていない。

これを年代別にみると、60~69歳は2537万円なのに対して、40歳未満は726万円、40~49歳は1134万円。世代間の貯蓄額の違いが際立っている。

確実に増えた貧困層、格差社会が鮮明に!

その一方で、確実に進行したのがいわゆる「格差社会」の進行だ。厚生労働省が発表している「相対的貧困率」は、1991年には13.5%だったのが、現在では15.7%(2018年)となっている。貧困線(可処分所得の中央値の半分)を下回る収入しか得られていない層が増え、G7の中ではワースト2位となっている。6人に1人が貧困の状態に陥っており、子どもの貧困率は1991年には12.8%だったのが、2018年には14.0%に上昇している。

さらに、この30年で問題になったのが、いわゆる「就職氷河期世代」の貧困問題だ。ロストジェネレーション=失われた世代ともいわれる人々の存在で、バブルが崩壊して企業が新卒一括採用をセーブしたために大量の「就職できない(正規雇用者になれない)若者」が誕生してしまった。この世代の貧困に関する明瞭なデータが少ないために何とも言えないが、政府もやっと最近になってこの世代の貧困問題に対応するようになった。

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