1970、80年代の台湾で練られた日本人救出計画 現在の日本に台湾有事への備えはあるか

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交流協会から在台邦人に電話で避難連絡をする。その際、目的地は台北郊外にある日本人学校とし、数日過ごすようにする。学校は大人数の滞在に備え、食料など生活必需品を備蓄。海上保安庁の艦艇が台北北部の港湾に停泊するのを見計らって、ヘリコプターで人々を港湾まで輸送する。

数千、数万の在台邦人をまとめて救出するには、それだけの敷地を持った施設が必要だ。1000人規模の児童生徒数を有する学校は、避難所として有望と考えられていたようだ。

この頃も在台邦人の多くは海外駐在員とその家庭が占めており、日本時代を過ごした台湾人もまだ多くが存命だった。そのため先の戦友のような台湾人に協力を依頼することも可能だったろうが、戦争体験のない戦後世代が主体の中、有事における行動のイメージをどこまで互いに共有できたかは分からない。

SMS連絡網から先に踏み出せるか

2022年現在、在台邦人のバックグラウンドは大きく様変わりしている。現地に根を下ろして生活する日本人が非常に多く、ある種、戦前の状況に似ている。生活基盤が台湾にある以上、脱出か残留かを簡単に決断できない人々が多数発生する可能性は高い。一口に邦人救出と言っても、一筋縄ではいかない状況が生まれているのだ。

2015年から日本台湾交流協会では、外務省が行っている「一斉通報・安否確認のためのショートメッセージサービス(SMS)」の運用を開始した。邦人保護の第一歩として重要であるが、現代の事情に合わせたもう1、2段階上の準備が必要だろう。邦人保護に失敗は許されないのは言うまでもない。

高橋 正成 ジャーナリスト

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たかはし まさしげ

特に台湾を中心に、時事問題をはじめ、文化、社会など複合的な視座から問題を考えるのを得意とする。現役の翻訳通訳者(中国語)。

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