「働いても食べられない」アメリカ人増える背景 成人の5人に1人が飢餓の経験を持つほどに

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アメリカでは急激なインフレが続く中で、働いていても食料品を十分に買えないという人がフードバンク(食料配給所)を利用するケースが増えている(写真:Niki Chan Wylie/The New York Times)

ユタ州ペイソンに暮らすケリー・ウィルコックス(35)は、2017年モデルのダッジ・グランドキャラバンを運転して近くの食料配給所を初めて訪れたとき、意外な光景に驚いた。トヨタやホンダの新しいセダンやミニバンがあちこちにとまっていたからだ。「多くの人たちが私と同じような車に乗っていて、中には子どもを乗せていた」。

ウィルコックスは、幼い4人の息子の母親だ。今年春に初めて食料配給所のタビサズ・ウェイ・ローカル・フードパントリーを訪れたときに、このような光景を目にするとは思っていなかった。だが、自分が助けを必要としていることは分かっていた。失業した夫はすぐに営業の仕事を見つけたものの、インフレのせいで給料は十分とはいえなかった。

「今も請求書の支払いに困っている」と話すウィルコックスは、子どもたちを食べさせるため、夏になっても定期的にタビサズ・ウェイに通っている。食料品の値段が下がるとか、夫の給料が上がるといった変化がない限り、当面の間は食料配給所の助けが必要になるだろう。

原因は失業ではなく物価高

タビサズ・ウェイは、ユタ州のスパニッシュ・フォークにある。人口4万4000人のプロボ市郊外の町だ。以前は毎週130世帯ほどに生鮮食品や乳児用の粉ミルクといった必需品を提供していたが、今年に入ってからは、ウィルコックスの家族のように給料が生活費に追いつかない世帯も支援するようになり、その数は200世帯を超えるようになった。

十分に食べられない家庭が増えているのは、失業が原因ではない。2020年に新型コロナウイルスの第1波で経済が停止したときは、リストラが一気に広がったが、食べられない家庭が足元で増えているのはインフレが原因だ。住居、ガソリン、中でも食料品の価格は大きく上がっている。直近の消費者物価調査によると、食料品の価格は1年前に比べ10.4%上昇。1981年以降で最大の上昇率となった。

アメリカのフードバンクは支援ニーズに応えようとしているが、寄付は減少。フードバンクという救済手段があることに気づく困窮家庭が増えたことも、運営を難しくする一因となっている。

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