韓国初のLGBTQ区議「諦めずに活動を続けたい」 ソウル市区議チャ・へヨン氏が語る政界での挑戦

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2021年、韓国では軍入隊後に性別適合手術を受けたトランスジェンダー女性のピョン・ヒス陸軍下士(下士官)が除隊処分を受け、後に自殺するという事件が起きている。事件は国内外で物議を醸した。事件を受け、当時の「共に民主党」政権は国家人権委員会に特別委員会を設置し、LGBTQをめぐる状況の議論と改善策に力を入れるようになった。

そんな「共に民主党」の姿勢を見て、チャ氏は同党に入党しLGBTQ特別委員会に加入、「差別禁止法」の共同執行委員長に就任した。「差別禁止法」は同党の草案を元とする法律で、LGBTQに限らずすべての差別を禁止する基本法である。

2022年初め、チャ氏はLGBTQ当事者として大統領選で「共に民主党」の候補だった李在明(イ・ジェミョン)氏と差別禁止法の立法問題について1対1のオンライン討論を行い、そのやりとりが韓国で話題になった。

 チャ氏「李候補の周りにLGBTQの友人や知人はいるか?」
 李氏「いないと思う」 
 チャ氏「では私が最初のLGBTQの友人になろう」
 李氏「本当か? それは嬉しいことだ」
 チャ氏「私は李候補の初のLGBTQの友人として、社会から差別とヘイトを なくすために微力であるが力を尽くしたい」
 李氏「ありがとう。とても心強い。自分で選べないこと(性的指向)で差別されるのは悲しいことだ。誰もが悲しまずに済む世の中を作るのが私の夢だ」

だが2022年3月の大統領選でイ氏は、「国民の力」候補の尹錫悦氏に敗北した。その後、2022年6月の統一地方選で、チャ氏は党の推薦を受けてソウル市麻浦区議に立候補した。

LGBTQは「批判」の対象

韓国ではLGBTQに対し批判的な態度を取る人が少なくない。加えて、保守的なキリスト教団体が同性愛に反対し、選挙では強大な組織力で特定の候補者を落選させることがあるという。

「ネットで検索すれば、私の『LGBTQ人権活動家』の経歴もカミングアウトの記事もすぐに出てくるので、それを見た人からの誹謗中傷がつきまといます。しかし私が韓国初のLGBTQの政治家というのは、公言しなくても私の一部であることに違いありません。過去の活動歴が選挙戦で不利に働くとみる人もいます。LGBTQ当事者の立候補自体が初めてなので、私も私のチームも前例のない選挙戦に臨むことになりました」

チャ氏が立候補した麻浦区は、革新派の「共に民主党」の地盤が固い地域だ。今回の区議候補は3人。チャ氏と「国民の力」の候補者の他に、過去に「共に民主党」から出馬し区議を2期務めた無所属の候補者がいた。その候補者は「共に民主党」がチャ氏を指名したことで離党し、無所属候補となった。彼の支持者はソーシャルメディア(SNS)に不満を書き込んだ。「これは『共に民主党』の慢心だ。推薦すれば当選できるという傲慢さから、よそから『ミス・セクシャル・マイノリティ』を連れてきて立候補させた。この民意無視の横暴を許さないために、私たちがやるべきことは市議には国民の力の候補者に、区議には無所属候補に投票することではないのか」。

選挙戦最後の金曜日、チャ氏が投票を呼びかけているときに、その無所属の立候補者と支持者に遭遇したという。チャ氏はその日のことを「投票の呼びかけの際、同じ通りにいたので、彼らの前を通らざるをえませんでした。すると候補者の支持者がどんどん大きな声で叫び出しました。私たちが赤信号で止まっていると、彼らは『LGBT! LGBT!』と叫びます。それ以外の言葉は何も言わず、ただ『LGBT!』と叫んでいたのです」と振り返る。

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