韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが

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この記述の意味するところは、韓国政府は問題解決に向けて最大限の努力をしている。だから日本企業の資産の現金化を認める判断は当面、待ってほしいということなのだ。

徴用工問題に関する裁判は、原告である元徴用工の主張が認められ日本企業に損害賠償金を支払う大法院の判決が確定している。そして三菱重工など日本企業の資産が差し押さえられ現金化手続きに入ることも認められた。

これに対して日本企業側が異議を唱えて再抗告した。それに対する大法院の判断が早ければ8月中にも出される見通しとなっている。再抗告が棄却されると、日本企業の資産が競売にかけられ現金化が現実のものとなるわけで、徴用工裁判はギリギリの最終段階にきているのだ。

現金化をとりあえず止めて、解決策を模索する構え

徴用工問題の抜本的な解決策を短期間でまとめることは不可能に近い。しかし、現金化のタイムリミットが目の前に近づいている。現金化によって日韓関係を決定的に悪化させることは回避しなければならない。そう考えた韓国政府は、原告側との話し合いの場を動かすとともに日本政府との協議にも積極的に取り組み、その実績を意見書として大法院に伝えることで現金化決定の先送りを実現する。そのうえで少し時間をかけて当事者が合意できるような解決策を模索する、という二段構えの対応に出たのだ。

尹錫悦政権の意図が明らかになると、当然のことだが原告側は激しく反発した。原告側にとって大法院の判断延期は救済措置の延期でもある。「憲法が保障した迅速な裁判を受ける権利を侵害したものだ」「意見書提出は被害者側の権利行使を制約する重大な行為」などと批判し、発足間もない官民協議会からの離脱を決めてしまった。

当面の問題は大法院がどういう判断をするかだ。大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない。

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