「頭から流血」見習いパティシエが遭った壮絶暴力 泥酔オーナーに殴られ気絶、トラウマで心に傷

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――後輩の方の回復のために、佳奈さんは多大な貢献をされたのだと感じました。

いえ、最近は逆のことを考えていて。あの店で働いていたとき、私がそばにいて、励ましてきてしまったせいで、後輩を縛っていたのかもしれないって後悔しているんです。

在職時はあの子を守るためにがんばったつもりだったけど、本当の意味で守ることって、私も辞めるから一緒に逃げようって言ってあげることだったんだと思うんです。そうしていれば搬送されることも、トラウマを背負うこともなかったんじゃないかって。

私もマインドコントロールにかかっていたんだと思います。「今中途半端な状態で辞めたらこの子も後悔する」って思ってた。ずっと悔やんでいます。

パワハラ後遺症から立ち直って今思うこと

――佳奈さんは現在もパティシエールとして働かれているんですよね。

はい。半年の休養を経て再就職したお店は本当にいい環境で、そこでの経験を元に独立して、今は自分のお店を経営しています。今ではお菓子を作ることが楽しくて仕方がないって心から言えます。

ハラスメント被害者の「その後」の話
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今日はこれを伝えたいと思って来たんですけど、私は「あれがあったから今がある」とは思っていません。そんな考え方はしちゃいけないと思う。というのも私、あの店を辞めてからのほうがずっと、何倍も菓子職人としての能力が伸びたんです。知識や技術は平穏な環境があってこそ身につくもの。本当に……本当に無駄な時間を過ごした。まともな職場で働き始めていたら、もっと早く今みたいになれてた。

こういうことを言えるようになるまで時間がかかってしまったけれど、つらい経験をしたぶん能力がつくなんてことはないって断言します。どんどん伝えたい。ひどい環境にいるからこそメンタルが強くなったなんて思わなくていい。ひどい環境から離れることは逃げじゃないって言いたいです。

――現在、労働環境について相談を受けることもあるかと思うのですが、自分なりの伝え方のポイントがあれば教えていただきたいです。

逆に聞きたいくらいなんです、どうしたら伝わるのか。実際に相談を受けることはあります。でも、本人が納得しないときも多くて。「あなたの立場ならそう言えるけど、自分はそうじゃないんだ」となったら何も言えなくなってしまいますよね。

――この連載の初回でインタビューしたパワハラ被害者の支援NPOの代表の方がおっしゃっていたのは、渦中にいる人には声が届きにくくなるので、周りの人が劣悪な環境に身を置く前に知識をシェアしてほしいということでした。

そうですね、私が被害に遭っていた当時よりも労働についての知識はだいぶ広まってきているように思います。それでもやっぱり、「うちの業界はこれが当たり前なんだ」といった言い方で劣悪な労働環境を正当化するような人はまだまだいるとも感じます。

ハラスメントは害でしかない。あっていいものではない。看過しないという姿勢を強く持って、各々が自分のいる業界に責任を持って関わっていくしかないのかなと思います。

本連載では、お話を聞かせてくださる、ハラスメント被害者の方を募集しています。パワハラ、セクハラ、モラハラ、アカハラ……など種別は問いません。応募はこちらからお願いします。(ヤフーニュースなど外部サイトの方は、お手数ですが東洋経済オンラインをご覧ください)
ヒラギノ 游ゴ ライター/編集者

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ひらぎの・ゆうご / Yugo Hiragino

ライター/編集者。

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