大手出版社が19億円請求「漫画村」の根深い問題 『ONE PIECE』などの「タダ読み」撲滅が難航

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出版科学研究所によると、2021年の漫画市場は6759億円で過去最高を更新。正規ルートの電子コミックが社会に定着し、活況を呈している。しかし、海賊版による被害額は1兆0019億円と、正規市場をはるかに上回る規模に膨張した。

背景には巣ごもり需要だけでなく、漫画村が残した影響が透ける。まず、世界中の悪徳業者に「日本人向けに漫画の海賊版サイトを作れば、膨大なアクセスを集められる」と知らしめることとなった点だ。

海賊版対策を取りまとめる業界団体・ABJの伊東敦氏は「漫画村の運営者は日本に住んでいたが、現在はほとんどのサイト運営者が海外在住」と危機感を募らせる。

「漫画村」を機に海賊版サイトが急拡大

ユーザーにとって敷居の低いモデルを生み出した点も大きい。漫画村以前の海賊版サイトは、コンテンツをダウンロードする形式が主流だった。一方、漫画村はよりスマートフォンで利用しやすいストリーミング形式を採用。この「漫画村モデル」が普及することで、ユーザーの裾野は急拡大。「漫画村は海賊版サイトの終焉ではなく、跋扈(ばっこ)の始まりだった」(伊東氏)。

現場の出版関係者も、悲痛な訴えを上げる。「海賊版によって著者の利益が失われ、『漫画家って儲からないよね』と志望者が減ってしまえば、大ヒット漫画の芽を摘むことになる。将来、損をするのは読者だ」(漫画雑誌の元編集長)。

今後、出版大手は国内外を問わず、訴訟や削除要請などの法的措置を加速する方針だ。ただ、足元で漫画の海賊版サイト数は1000に上る。また、動画サイトやSNSでの投稿など、海賊版コンテンツのあり方は多様化しており、いたちごっこに終わりが見えない。

大手出版社をもってしても、海賊版の撲滅は難航している(記者撮影)

問題解決へ重要性を増すのが、政府を巻き込んだ国際連携だ。足元でベトナム系のサイトが増加する中、外務省が2021年の首脳会談で海賊版対策における連携認識共有を図り、警察庁はベトナム当局と捜査を推進するなど、すでに省庁をまたいだ対策が始まっている。

IT大手の助力も欠かせない。国内では検索サービス大手のヤフーが1月、海賊版サイトへの対応について有識者会議を開くなど、協力姿勢が鮮明になっている。

総務省の海賊版対策の検討会では米グーグルへのヒアリングも進んでおり、著作権法などに詳しい弁護士は「海外のIT大手にも、国を挙げて対策を求める流れになっている」と明かす。

漫画村問題が訴訟で節目にさしかかってもなお、収束のメドが立たない海賊版。官民一体の体制を整え、撲滅に向けた対策が加速するのはこれからとなりそうだ。

森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケ、コンサル、エンタメ産業などを担当。過去の担当特集は「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」「激動の出版」「パチンコ下克上」など。

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