再雇用教員が4カ月で「雇い止め」された理不尽 定年後の教員が学校都合で切り捨てられる現実

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当時、愛川さんには大学の薬学部に通う娘がいて、薬剤師試験に合格するまでの間は、教育費がかかる見通しだった。また、退職を機に老朽化した実家をリフォームするための資金も必要だった。すべては再任用教員として、65歳まで働くことを前提としたライフプランだが、その目論見は脆くも崩れさった。

それから現在に至るまでの4年間、愛川さんは執筆活動のほかに予備校の講師を務めるなどして過ごしてきた。愛川さんの同年代の教員の中で再任用教員になれた人は少数。非常勤講師にしかなれなかった人も多いという。非常勤講師の場合、2校を掛け持ちしても稼げるのは月10万円程度にすぎない。

「再任用された人の中には、教育委員会の上層部とコネを持つ人が多い印象でした。再任用という制度的枠組みの中で、個人の裁量が入り込んでいるのではないでしょうか」

再任用されるかは自治体で異なる

再任用をめぐる状況は、自治体によって違っている。例えば、2018年度における福島県の「高等学校・義務教育学校」の再任用者(フルタイム)の数は51人となっているが、ほぼ同じ教員数の栃木県は147人と3倍近くに上っている(文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」)。

年度によっても再任用の状況は違っている。3年後の2021年度のデータを見ると、福島県の「高等学校・義務教育学校」の再任用者(フルタイム)の数は193人にも上っている。愛川さんが退職した2018年度と比べて、実に3倍以上も多い。現在は、当時に比べて教員不足が深刻化したことから、再任用者も増えていると推察できる。

つまり、再任用されるか否かは、どの自治体で働いているか、どの年度に定年を迎えるかによって大きく変わってくることになるのだ。こうした状況がある中で、再任用教員になれず、常勤講師や非常勤講師としての勤務を打診されるケースは少なくない。

一方、公的年金の支給開始年齢の引き上げに伴い、定年を迎えた教員の中には「65歳まで働きたい」と考えている人も数多くいる。その結果、公立学校教員の再任用制度は、ほかの非正規雇用枠も用いながら不完全・不安定な形で運用されており、その狭間で痛い目に遭う人も少なくない。

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