「缶の日本酒」で世界狙うベンチャー企業の正体 「客が自分で封を開けて飲める」というメリット

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このように、国内外ともにまだまだ可能性が残されている日本酒市場。とくに若者に日本酒の魅力を知ってもらいたいと、日本酒業界であるプロジェクトが進行中だ。

「ICHI-GO-CAN(一合缶)」は、全国のさまざまな日本酒を180ミリリットルの缶詰めにして消費者に届けるサービス。酒蔵と消費者を結ぶプロジェクトとも言えるだろう。販売チャネルは主に公式ECサイトのほか、アマゾンや楽天などの大手通販サイトだ。4種類飲み比べ3080円(税・箱代込、送料別)のほか、東北の酒造4本セット、全国の酒造10本セットなどが展開されている。目安としては、4合瓶で1800〜2500円のものを1缶あたり500〜700円で販売するイメージだ。

ポイントは若い世代への訴求力

仕掛け人は農業や食の分野での改革を目指すベンチャー企業、Agnaviだ。従業員13名の小さな企業ではあるが、同プロジェクトには全国35蔵元や容器メーカー大手の東洋製罐、オフセット印刷の東レ、講談社など複数業界の企業が多数協力している。代表取締役CEOの玄成秀氏はプロジェクトの意義について次のように説明する。

「日本酒産業は日本の代表的な産業。多くの企業が何らかの形で関わっています。また日本酒を盛り上げる会に名を連ねる国会議員は多く、総理大臣は就任すると日本酒の業界に『國酒』と揮毫して贈る伝統があります。それだけ、日本にとって重要な産業ということです」(玄氏)

ビジネスモデルは、同社が協業する35の蔵元から日本酒の「充填委託」を受け、自社充填設備で缶詰にする。そのうちの一部を買い上げ、「一合缶」のブランド名で、自社の流通で販売するというものだ。

プロジェクトのポイントは若い世代への訴求力だ。牽引するのは20代の起業家。ギフトとしても使いやすいデザイン性の高いパッケージに包み、宣伝・販売もネットで行う。東京農大醸造科の学生をモデルにした漫画とのコラボなども展開。プロジェクトを進める資金はクラウドファンディングで調達している。

缶という素材も一役買っている。先述のようにサプライチェーンにおける効率性のほか、表面に印刷できることもメリットだ。デザインの自由度が高く、若い世代に訴求する、カジュアルなイメージも演出しやすい。漫画とコラボしたデザイン缶などが可能なのもこのためだ。

東洋製罐開発の小ロット充填機「詰太郎」(写真:Agnavi)

日本酒という「生鮮食品」の容器としても優れている。日本酒の大敵である紫外線をカットし鮮度が保たれるからだ。また飲み口が切り込みになっているのも、香りを楽しみながら味わえる点が日本酒向きだ。

1合飲みきりなので保存に気を遣うこともなく、瓶のように場所をとらないので、冷蔵庫に常備しやすい。そのほか旅先で手に取れば、ワンカップのような感覚で移動のお供として飲んだり、土産にもできるなど、缶のメリットはいろいろと考えられる。

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