民主主義は「物語への過剰な愛情」と共存できるか 「ストーリー」のあふれる世界と権威主義の勝利

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人生や世界について、筋の通った意味を提示することこそ物語の本質ですから、くだんの意味を共有するにいたった人々は必然的に連帯を強める。

自覚されるかどうかは別として、それらの人々の間には「現実とはこのようなもの」という合意が成立しているためです。

「危険な物語」の大量拡散がもたらす結末

近著『感染の令和 またはあらかじめ失われた日本へ』(KKベストセラーズ、2021年)で、私はこの合意を「コンセンサス・リアリティ」と呼びました。

 

しかるにお立ち会い。

物語は、理性よりも感情に訴える特徴を持ちます。

だからこそ、物語化された情報には人を強く惹きつける力がある。

けれどもこれは「物語に没入するとき、人は理不尽なことや不合理なことを受け入れやすい状態になる」と言うにひとしい。

筋立てのいかんによっては、メチャクチャな結論を正しいと思い込み、現実の課題に対処できなくなってしまいます。

 

のみならず。

テクノロジーの発達により、今では現実認識や世界観のカスタマイズが可能になっている。

物語は長らく、「社会的に共有されることで、人々を結びつける」役割を果たしてきたわけですが、それが「個別化されることで、人々を切り離す」ものへと変異したのです。

 

個人、あるいは小規模な集団に合わせてカスタマイズされた形で、メチャクチャな結論を是とする「危険な物語」が、大量に拡散したらどうなるか?

コンセンサス・リアリティは解体されてしまいます。

人々は互いに、相手の現実認識や世界観が理解できなくなるのです。

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