民主主義は「物語への過剰な愛情」と共存できるか 「ストーリー」のあふれる世界と権威主義の勝利

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「筋の通った意味」を見出すのが物語の目的である以上、物語と(たんなる)事実認識には根本的な違いがあります。

わかりますね?

筋立ての有無。

「特定の結論にいたるよう誘導する方向性」と言うこともできます。

しかも、この結論に賛同することには「賢い」「(道義的に)正しい」といった価値づけがなされる。

 

現実を客観的・学術的に分析しているように見えても、筋立てが盛り込まれている言説は、広い意味における物語なのです。

誘導や価値づけがひそんでいればこそ、われわれはそれらの言説から「指針」を得たように思う。

本来は筋立てを持たない言説にたいし、われわれのほうで勝手に方向性を見いだしてしまい、物語に仕立てあげることすら珍しくありません。

 

世の中のあるべき姿に関する筋立てが盛り込まれ、かつ社会規模で共有された言説は「神話」と呼ばれます。

戦前の富国強兵はもとより、戦後の平和主義、あるいは1990年代以後の新自由主義やグローバリズムも、じつはすべて神話。

だから「時代や社会は神話で動く」と言うのですよ!

〈物語的言説〉の爆発的増大

筋の通った意味、つまり指針を与えてくれる以上、物語、ないし物語性を持った言説は、そうでない言説より受け入れられやすい。逆に言えば物語は「人を強く惹きつける効果を持つように組み立てられた情報」とも定義できます。

人を強く惹きつけることができれば、社会的な影響力も高まる。政治やジャーナリズムは、物語の技法、いわゆるストーリーテリングを大いに活用しています。のみならず現在では、ビジネス(とくにマーケティング)、教育、法律、医学、自己啓発など、多くの分野がストーリーテリングを重視するようになりました。

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