闘病3年、享年38歳の彼女が完治信じて紡いだ言葉 末期がんにより35歳で余命1年宣告、夫が記録守る

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みづきさんの没後、Kさんは「闘いの終焉」という投稿を8月30日にアップしてブログにピリオドを打った。投稿の最後に「記事はこれで最後とさせて戴きますが、このブログの閉鎖はしませんのでご安心ください」とある。以降はスパムコメントの削除など最小限の管理にとどめ、静かにブログを守るようになった。

表だった変化が見られるようになったのは、4年経った2012年の夏からだ。トップページにFacebookのコメント機能が組み込まれ、時をおいて元のコメント欄は新規書き込みを停止した。さらに2年経った2014年の秋には、ブログ本文とコメントをトップページのドメイン下にすべて移設する作業に入る。利用しているブログサービスが事業撤退などで消失したら本体を失ってしまう。それを避けるために、いまのうちにすべてを自らのサーバー内に置こうとの考えからだ。

元ブログは移行後に閉鎖する予定もあったが、現在まで残している(INTERNET ARCHIVEより)

「あえて細部はあまり思い出さないようにしています」

2015年2月に移設を完了すると、2016年9月には累計1000万アクセスを記録。2022年6月時点でも1日5000アクセスを超える日が多く、累計では2200万アクセスに達している。本文の更新が停止してから14年が経過したブログとしては異例の存在といえるだろう。

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現在、Kさんがブログを訪れるのは月1回程度だという。移行後のコメントチェックなどが主で、普段はブログを深く読み込むことは意識的に避けている。

「正直なところ細部まで思い出すと14年経った今でもとても悲しい気持ちになります。これはきっと生涯持ち続けるのでしょう。しかしやはり悲しむのは心身ともに疲れます。あえて細部はあまり思い出さないようにしています。故人を思い出すときは楽しかったエピソードだけでいいと」

それでも抹消するつもりはない。みづきさんの墓は建てず、遺灰は海洋散骨した。家族や友人にとって、追悼の依り代はこのブログということになる。現在も命日の頃には多くの人が訪ねに来る。新たに読みに来る人もいる。

みづきさんのブログはお墓であり、具体的な出来事と感情をつぶさに刻んだ闘病記であり、みづきさんの生きた証しでもある。さまざまな感情が集うかけがえのない形見を、Kさんはこれからも淡々と管理していくという。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。

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