もしもMBA学長がフェスをプロデュースしたら 「茨城からフェスの灯は消さない」決意と勝算

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粘り強く交渉を続けるうちに、少しずつ参加してくれるアーティストが決まりだした。ヘッドライナー級の出演者たちが固まり出すと、そこからブッキングの流れが加速しはじめる。「あの人が参加するのなら安心だ」という雰囲気ができはじめたのだ。最終的に、MAN WITH A MISSION、マカロニえんぴつ、石井竜也、杏里、ゴールデンボンバー、PUFFYなど錚々たる顔ぶれが参加してくれることになった。

そしてふと、このプロセスは、スタートアップの信用創造と似ていることに気づいた。自分では未知のチャレンジをしていたつもりだったが、コンセプトとプランを考え、ゼロから信用を作り、人を巻き込み、新しい事業を作り上げるという一連のプロセスは、僕がこれまでに何度も実践し、ビジネススクールでも教えてきたことだ。

だったら僕は素人ではない。十分に勝算がある。

はじめての開催こそチャンス

いよいよLuckyFesの開催まで1カ月を切った。今のところチケットの販売も順調で、県民や地元産業界からの期待も高い。この短期間でゼロからここまで来れたことを考えると、現時点では自分に「100点」を付けてもいい。いや「120点」でも良い。それだけ大変だったし、達成感と自信がある。もちろん、実際に蓋を開けてみて、閉幕を迎えるまでは、どうなるかはわからないけれど。

フェス業界の重鎮は、僕を気遣って「初回から成功する人はいないから」と言ってくれている。でも大先輩の言葉はありがたく胸にしまいこみつつ、僕は第1回LuckyFesを大成功させるつもりだ。出し惜しみすることなく、赤字覚悟で、最高のフェスにすることを約束しよう。事業と考えれば1年目は投資だ。リターンは、そのあと何年かかけて回収すればいい。 

LuckyFesには歴史も実績もない。はじめて尽くしだから、至らぬところもあるかもしれない。でも、だからこそ、これは観客のみなさんにとってもチャンスだと思っている。

「初回から毎年来てるんですよ」。視察に行った他のフェス会場で、僕は何人もの観客からそんな声を聞いた。我が事を語るように、うれしそうな顔をして。そう、彼らはただの観客ではなく、そのフェスをゼロから作り上げてきた一員・仲間(LuckyFesでは観客のことをフレンズと呼ぶことにした)なのだ。

皆さんがLuckyFesを一緒にゼロから作り上げていくフレンズとして、歴史の証人として加わってくれることを、僕は国営ひたち海浜公園でお待ちしている。 

堀 義人 グロービス経営大学院学長

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ほり よしと / Yoshito Hori

グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、世界の成長企業(GCC)の共同議長、アメリカハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)、アメリカウィルソンセンターのグローバルアドバイザリーカウンシル等を歴任。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設し、現在一般社団法人G1の代表理事を務め、日本のビジョンである「100の行動」を執筆する。2011年3月大震災後には復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、現在一般財団法人KIBOWの代表理事を務め、KIBOW社会投資ファンドを組成し運営している。2016年に水戸ど真ん中再生プロジェクトを始動。2016年4月からは茨城ロボッツの取締役兼オーナーとなる。他には、公益財団法人日本棋院理事、いばらき大使、水戸大使等歴任。5男の父親で、水泳のジャパン・マスターズに毎年出場している。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『新装版 人生の座標軸 「起業家」の成功方程式』(東洋経済新報社)、『日本を動かす 100の行動』(共著、PHP研究所)等がある。

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