「メタバース」は暗号資産の救世主になりうるか デジタル化と相反するブロックチェーンの課題

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この、人の介在しないシステム運用はメタバース(仮想空間:Metaverse)と相性が良い。ゲームのような“人工的な世界”である。VR(仮想現実)のヘッドセットも活用され、それは、現実から拡張された世界を作り上げる。

さらに、それが拡大しビジネスとして成功しているのは、メタバースの「多人数同時参加型ゲーム」が挙げられる。自分自身の代わりに分身としての「アバター」(Avatar)を使い参加する。戦闘ゲームが人気だが、そのときに、自分の姿を選び、戦いに勝利するために武器を買う。勝利していくためには、技術ももちろん大事であるが、強い=高い武器を買うことが勝利につながる。そこで使われることが多いのがゲームの世界だけで使われる仮想通貨である。

わかりやすいイメージでいうと、大ヒットした映画 『マトリックス』(1999年)の中で、キアヌ・リーブスが演じる主人公が活躍する世界が、コンピューターの中に構築された巨大な仮想空間「メタバース」である。

暗号資産の課題

暗号資産交換業界では、不幸な事件が何件も発生した。最も大きかったのが、2018年の交換業者コインチェック(Coincheck)における約580億円の流出事件である。それ以降、金融庁登録の暗号資産交換業者は“各自”システムを硬固なものにした。要は、個々のレベルまで分散化したのである。

この点が、デジタル化した大きなピラミッド型組織と、分散化を超えて、さらに“個々”になるとは、さらに反対方向である。これが第2の課題である。

暗号資産業者は、その堅固な方向は各自の対応であり、全体のネットワークをつないではいない。銀行業界では全国銀行協会としてまとまり、その決済システムとして「全銀システム」を運営している。

暗号資産業界は、それを自覚しており業界団体を「日本暗号資産ビジネス協会」(旧 日本仮想通貨ビジネス協会、日本仮想通貨事業者協会)1つにまとめた。今後、銀行がやっているような決済システムを構築する方向に向かうべきと考える。

暗号資産については金融庁登録の暗号資産交換業者を介さないで売買されているNFTや暗号資産で詐欺が発生することがある。投資はあくまでも自己責任であり、日本人のリテラシーの問題といえばそうである。

最近ではこの4月に、暗号資産に限らず、広くデジタル空間(仮想)でのさらなる発展を加速するため、業界横断的な「日本デジタル空間経済連盟」が発足した。日本経済の成長に資することを期待している。

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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