米国の株価が本格上昇に転じたと見るのは早計だ 日本株は米国株よりも本当に期待できるのか?

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2022年のアメリカ株の年初からの下落率が一時大きくなったいっぽうで、日本株の年初からの下落率は約5%(5月27日時点)と限定的だ。金融緩和徹底を続ける日本銀行の政策姿勢がFRBと大きく異なることが、日本株のパフォーマンスが相対的に悪くない最大の要因だろう。

日本での「2%以上のインフレ」は長くは続かない

日本でもインフレは進んでいる。実際、4月分の消費者物価(生鮮食品除くコア)は前年比2.1%と大きく上昇した。これは7年ぶりの高い伸びであり、一見すると日本でも「2%インフレ」となり、長年のデフレを克服して正常化が実現したようにも見える。ただ、当月の消費者物価上昇の主因はエネルギーなどの外的な要因と、携帯電話料金の下落分がなくなったことである。このエネルギー価格上昇は、ロシアなど産油国側の供給減少への思惑がもたらした部分が大きい。

外的なショックによるエネルギーなどの原材料の価格上昇は、日本経済全体にとっては増税同様に負の影響が及ぶ。経済メディアなどでは、原材料や食料品価格の上昇をセンセーショナルに伝えているが、これらは「インフレ」や「全体物価上昇」ではない。もちろん原材料高は経済回復の足かせになるのだから、「持続的な良いインフレ」ではないと思われる。

実際に、日本銀行は、エネルギーを除いた「コアコアベース」の数字を、インフレ基調を示す指標として重視する姿勢を鮮明にしている。4月の同指標は前年比+0.8%とプラスだが、この伸びはインフレ鎮静化が課題になっている米欧諸国と比べればかなり低い。

筆者は、政府と日銀が目指す2%インフレ実現につながる状況にはまだ距離があると考えている。最近の原材料高を主因とした消費者物価の高まりについては、日本銀行も同様の認識をもっているとみられ、金融緩和を徹底する姿勢をほとんど崩していない。

「コアコアインフレ率」が2%に近づくには、失業率が2%前後に再び低下するなど、労働市場が逼迫して、賃金が伸びる必要がある。3月の残業等を除いた賃金の伸びは前年比+0.5%と低い。

また今年の春闘賃上げ率なども前年からほとんど変わっていない。2022年度中に早々に賃金が上昇する可能性は低く、当面、価格上昇はエネルギー、食品など一部業態にとどまりそうだ。ここから原油価格等がさらに上昇するなどの事態が起こらない限り、4月に高まった消費者物価コアで示された2%インフレは、2023年は続かずに再び1%台の低インフレに低下するとみられる。

株式市場の観点では、先述のように、金融政策への懸念がアメリカ株にとっての逆風として続く可能性がある。一方で、日本においては日銀の揺るがない金融緩和姿勢が日本株市場を支えるという、「日米株のコントラスト」が当面続くのではないか。

アメリカ株と日本株のパフォーマンス格差は、アメリカ株が大きく下落したことで、一時は約10%にまで拡大した。ただ、同時に年初からドル高円安となったので、この理由は主にドルベースでみた割安感によって説明できるとも言える。つまり、日本株に投資する強い材料はないので、消去法的に日本株が買われているとも言える。

仮に7月に予定されている参議院選挙と自民党内での主導権争いを経て、岸田政権の経済政策で「アベノミクス路線」継続が鮮明になれば、日本株はもう少しアウトパフォームするかもしれない。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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