アラサーのための戦略的「人生相談」--どうしたら「豊かさ」を実感できますか(その2)

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広瀬:では、「呼吸」を意識した途端に、呼吸のリズムが壊れて、自然に呼吸することがちょっと難しくなったりするという経験をしたことはないですか?

柿谷:確かに、ありますね。

広瀬:では、人前で話すことを考えてみましょう。「人前で話す」という状況を意識すると、話そうとすることに集中できずに、結局うまく話せなくなりますね。先月扱った「プレゼンテーション」のときにお話ししたように、「上がり症」の人は大体、「人前で」ということを意識しすぎて、自然に振る舞えなくなるんですよ。

これは「豊かさ」についても言えるんじゃないでしょうか。多分「自分は豊かなんだろうか?」と自問しないで済むような状態が、実はいちばん豊かなんじゃないでしょうか。なぜなら、それは「豊かさ」を超越しているわけですから。

残念ながら、現状の日本はそういう状態とは程遠い。「どうしたら豊かになれるのか」と、人々がマナジリを決しているような社会は、相当に貧しい社会でしょう。これは「豊かさについてのパラドックス(逆説)」と言っていいかもしれません。

ただ、「日本は貧しい社会だ」と言ったって、餓死者が毎年、相当数出るような社会とは違います。そこがいわゆる「最貧国」との大きな違いです。

『豊かさの誕生』の中で、著者の母親の「貧しくなければ、少なくとも貧しい中で悩むことは避けられるわね」という言葉が紹介されていますが、至言ですね。貧しい国の人たちからしたら、「日本人は豊かか?」なんて問うことは、「贅沢なこと、言ってんじゃねえよ!」なんて言われるに決まってます。

実際、最貧国と言われる国を訪れて、「自分たち日本人がいかに恵まれているか」を知り、人生観が変わって豊かになった人は少なくありません。「自分より貧しい人を視野に入れる」ことは、確かに最も確実で有効な「豊かさ」を実感する方法だと思います。

ただ、それで獲得する「豊かさ」と、ここで私が言いたい「豊かさ」とは、ちょっと違うんですよ。一言では言えませんが、われわれ日本人一般にとって、すでに「豊かさ」っていうのは、単に物質的な面だけでもないし、また精神的な充足感だというだけでもなく、もっと前向きなことだし、「静的な状態」ではなく「ダイナミック(動的)」で、つまり行動的なことだし、個人の中で完結するものではないんじゃないか、と考えているんです。この点が「清貧の思想」とのいちばんの違いです。

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