日本の管理職には「ビジョンがない」残念な現実 山口周さん×中川淳さん対談(3回目)

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リーダーシップのスキルも順番が大切

山口:ただし率先垂範型も、状況に応じてそれをちゃんと使える人のほうが業績を上げるんですね。ある種の劇薬というか、病人に対するカンフル剤みたいなもので、とにかく組織を活性化するには効果的なのでしょう。

もちろん、そればかり使っていると患者にも組織にも良くありません。しかし組織を動かすテクニックのひとつとして率先垂範型を持っているリーダーのほうが、持っていないリーダーよりも業績を上げているんです。

中川:それはすごくよくわかります。以前から周さんは「順番が大切だ」とよくおっしゃっていますが、これもそうですよね。いまみたいにみんなが「ビジョンだ、ビジョンだ」と盛り上がっていると、ビジョンのことばかり考えてしまい、具体的な下部構造をきちんとつくることを忘れてしまう人が出てくるんですよ。

たとえば周さんが奈良に来て地元の経営者たちに美意識の話をしてくださったとき、聞いている人たちは「うんうん、なるほど」というように盛んに頷いていました。でも優先順位から言うと、アートの前にクラフトとサイエンスが足りない会社ばかりなんですよ。

だから僕は周さんの後で話したときに、そのあたりのことを強調しました。

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山口:たしかに順番は大切です。コーン・フェリーの調査で分析をしてくれた人も、業績に対するインパクトはビジョンがいちばん大きいけれど、最終的に有効なビジョンを打ち出すことに成功したリーダーのキャリアを見ると、いきなりビジョン型からスタートした人はほとんどいないと言っていました。

まずは的確な指示を出したり、自分で率先してやれるだけの能力があり、部下とのインタラクションもちゃんと取れるようになった上で、ビジョン型になる。それが業績を上げるリーダーに共通する発達段階のようです。いきなりビジョン型の手法に飛びついてすぐに結果を出せるものではない。部下が「もしあの人が現場に降りてきたら、自分たちよりもパフォーマンスが上がるんだよね」というある種の権威というか、ベーシックな信用があって初めて、有効なビジョンを打ち出せるのでしょう。

中川:ここはものすごく大切な議論だと思います。バズワードに惑わされる人たちって、その概念が万能だと思い込みやすいので。正しい体系的な理解をせずに、言葉の上っ面だけに反応して動くから、間違うんですよ。

山口 周 独立研究者・著作者・パブリックスピーカー、ライプニッツ代表

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やまぐち しゅう / Shu Yamaguchi

1970年東京都生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事。中川政七商店社外取締役。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

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中川 淳 中川政七商店 代表取締役会長

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なかがわ じゅん / Jun Nakagawa

1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通入社。02年中川政七商店に入社、08年十三代社長に就任、18年より会長。業界初の工芸をベースにしたSPA業態を確立し、「中川政七商店」などの直営店を全国に約60店舗展開。また「日本の工芸を元気にする! 」というビジョンのもと、09年より業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。現在は奈良に数多くのスモールビジネスを生み出し、街を元気にするプロジェクト「N.PARK PROJECT」を提唱、産業観光によるビジョンの実現を目指す。15年「ポーター賞」受賞。「カンブリア宮殿」などテレビ出演の他、講演歴多数。

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