【産業天気図・空運業】国際・国内とも堅調。ただ燃油高、国内景気減速が不安材料

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空運業は「晴れ時々曇り」だが、少し雲行きが怪しくなりつつある。
 前期にSARSの影響が響いた国際線の旅客数は戻り歩調。ビジネス需要は完全に元に復した。観光も夏のビーチリゾートを中心に回復しつつある。中国、東南アジア方面の団体は遅れ気味だが、第1四半期辺りからこうした方面の軟調は予想されていたため、全体の動向に大きな予想のズレはない。国際貨物は重量ベースで前期比2ケタ増(5月を除く4~8月)と好調で、これは想定を上回っている。
 不透明感が増しているのは、各社の収益源である国内線だ。国交省の速報が出ている8月までの時点で、旅客数は6月から前年割れに転じた。SARSの影響が残った前年の夏休みは、海外旅行から国内旅行へのシフトがあったのである程度は予想されていたが、台風による欠航、五輪逆効果で上積みされた感がある。ここに来て気になるのは、12月に入って発表された景気指標の多くが景気減速を示している点。2000年のITバブルが空前の利益をもたらしたことから分かるように、空運は景気に大きく左右される。国際線も日本人の出国−帰国が基本なので無縁ではない。現状では景気減速を業績予想に織り込むことはできないが、注意が必要だ。
 需給以外で注目されるのが燃油費。原油相場の高騰に伴い、各社の期初想定を大幅に上回る水準が続いている。例えばJALはシンガポール・ケロシンベースで期初1バレル=34ドルで見ていたが、上期実績は44ドル。下期はなんと62ドルで通期平均は53ドルに修正した。燃油上昇を理由に大手は1月から国内線航空運賃を値上げしたが、上昇分すべてを転嫁できない。また、航空燃料は軽質油からしか精製できないため、原油相場が多少下落しても高止まりする恐れがある。
 こうした環境から、JAL、ANAとも課題はコスト削減。前期から機材のダウンサイジングなどで需給調整を開始したANAは好調だ。2000年に迫る中間営業益を出しながら、会社が期初予想を変えていない(下期は赤字予想になる)のは、中間決算直後に値上げ発表を予定していたため。会社予想を上回るのは必至と見る。
 深刻なのはJAL。9.11以来、若干の調整はあったが、基本的には一過性のマイナス要因が消えれば需要は回復するという前提に立ち、思い切った供給調整をしてこなかった。燃油高騰にもかかわらず営業利益が会社期初予想に対しわずかな減額なのは、向こう3カ年で計上する予定だった退職給付制度変更に伴うコスト削減効果を今期にすべて計上することになったため。来期何もしなければ営業益はゼロに限りなく近くなりそう。そこで、ようやく重い腰を上げて抜本的なコスト削減に取り組むこととなった。現在1000億円のコスト削減を目指して検討を続けているが、正式発表は3月初旬になりそう。
 新規のスカイマークエアラインズは、終了した10月期で初の通期黒字決算を実現した模様だが、整備関係を原因とする欠航が多く、定期航空会社としては課題が多い。スカイネットアジア航空は産業再生機構の傘下で再建中。反対にANAの支援を受けていたエアドゥが今年度で再生完了となる。スカイマークがエアドゥ買収に意欲を見せているが、既存株主の同意を得るのは難しいだろう。
【筒井幹雄記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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