台湾鉄道が「名物列車の置き換え」を急いだ事情 課題の「民営化」へ車種整理でシンプル化図る

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また、EMU300型は時速130kmの速足を誇り、台北―高雄間を当時史上最速の3時間47分で走破したものの、2年足らずで車輪に亀裂が発生し、最高速度が105kmに抑えられた。その後改修を受け北部を走る比較的短距離の自強号に活躍、時速120kmでの運行も再開したものの、2021年4月には10日間で3回もの発煙トラブルが発生。その後12月に復帰が発表されたものの、これも1週間足らずで故障が発生し、運用休止の状態が続いている。

この状況について、台湾の鉄道文化に詳しい台湾師範大学の洪致文教授は、「導入当時は政治的な要素に加え、動力分散式列車(電車)の導入に幹部も試行錯誤しており意思決定が難しかった」と語る。

交通部長(国土交通大臣に相当)の発言によると、台鉄には23の車種があり、メンテナンス部品は4万件に及ぶ。台湾に近い面積の地で営業キロが約2倍のJR九州でも40車種未満であることを考えると、その運用の複雑さがうかがえる。

台鉄はこの課題解決に向け、ダイヤ改正と同時に「台鉄新時代の突入」「車種の簡一化の本格始動」「安全改革への取り組み」といったリリースをそれぞれ個別に発表、現在の列車種別を最終的に都市間列車と通勤列車の2種別にすること、部品の国産化を推進しメーカーからの供給が止まっても柔軟に対応可能とすることで、運行効率の改善を目指す方針を示した。今回のダイヤ改正はその一環である。

民営化を阻む要因はまだまだ多い

しかし、目標の到達までにはまだまだ時間がかかりそうだ。今回の改正で復興号は引退したものの、2等列車に当たる莒光号の運用は残る。客車列車の莒光号は機関車の老朽化により最高速度が時速90kmに制限されており、遅延が発生した際の普通列車の追い抜きに時間を要するなど、台鉄が都市部で進めている都市鉄道化事業「台鉄捷運(MRT)化」の障害となっている。

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また、組織的な改革も必須であろう。民営化法案を審議している立法院(国会に相当)の議員の動きも障害になりかねない。今回のダイヤ改正では、旧型客車が多かった南迴線にEMU3000型やEMU900型といった輸送力の高い新型車両が投入され、今後6月に予定されている改正では現時点で自強号が停車しない台北郊外の通勤駅に速達型の「プユマ号」が新たに停車することが発表されている。

これらの不自然な動きに、ネット上では地元の影響力のある議員が関与しているのではないかと疑う声が出ており、政治家の介入による「我田引鉄」のような政治と鉄道のつながりを弱める必要もあるだろう。

国政の課題でもある台鉄の民営化だが、その実現はまだまだ道半ばだ。

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小井関 遼太郎 東アジアライター

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こいぜき りょうたろう / Ryotaro Koizeki

台湾北部在住。観光や都市政策を中心に研究を進めている他、台湾のガイド資格などを保有しており現地事情に精通。台湾から見た東アジア情勢を中心に発信している。
E-mail : ryo120106@gmail.com
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