アルピナ信奉者が驚いた「BMWへ商標譲渡」の意味 57年の関係を整理した先に2社各々の道筋が見える

拡大
縮小

こうした話題ではつい「いよいよ独特の個性を備えた自動車ブランドが大メーカーに吸収されてしまうのか」と感傷的な受け止め方になってしまいがちだが、本稿では一歩退いて、両社にとってこの決断の背景にどういうロジックがあったのかを推測してみよう。

最初にBMW AGサイドの事情を考えてみる。彼らにとってアルピナを手に入れることは、苦戦している大型高級車セグメントにおいて強いブランド力を得るうえでの最短ルートなのだ。

BMWの最大のライバルがメルセデス・ベンツであることはいうまでもないが、BMWは3シリーズがメルセデスCクラスに対して販売実績で善戦するものの、より上級のクラス、特に7シリーズはSクラスに歯が立たない状況を長年続けてきた。

車両自体の完成度の差よりも、BMWはあくまでドライバーズ・サルーンであり、後席に乗せてもらうような使い方をするものではない、という認識が一般に根強いことが大きく影響している。シェアを拡大するには、単純に豪華装備を盛り込み、快適性を優先するだけでなく、冒頭に述べたアルピナのように極限まで高級・高性能を追求した、という方向性を誰にもわかりやすいよう明示する必要があるだろう。

BMWがアルピナに払う敬意

BMW AGが自前で高級車ブランド、あるいはBMW Mと並ぶようなサブブランドを立ち上げる選択肢も検討されたに違いないが、そのブランド・ビルディングには広告宣伝にしろ、ディーラー設備にしろ、途方もない手間と費用を要し、そのわりに見返りが本当にあるかどうかは読みにくい。

「より高級」を狙った新ブランドがBMWアルピナと競合することは、既存のBMWファンも、BMW AGとしても望むところではないだろう。実際、かねてBMWはアルピナの進路を阻まないように配慮してきた。たとえば2000年に高級スポーツカー「Z8」を販売したとき、BMWはマニュアル・トランスミッションしか用意しなかったのに対し、のちに発売されたアルピナ版にはATだけが用意され、守備範囲を分けた、という具合だ。

いままで述べてきたとおり、BMWにはアルピナというブランドに対する敬意が強く存在するのは疑いない。2026年以降の新型車についても、これまでアルピナが目指してきたクルマづくりが継承される可能性は高いのではないだろうか。

次ページBMWがアルピナを買収する手はなかったのか?
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT