日本人写真家が記録した"戦場"キエフの10日間 包囲された首都で生きる人々の悲痛な日常

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ウクライナ政府は総動員令を発令し、国防の担い手として期待できる18歳から60歳までの男性は原則出国禁止にしていた。ターニャはキエフ駅で夫のセルギ(35)と別れの抱擁をして、ケイトとともに寝台車に乗り込んだ。

700キロを超える鉄路で揺られること14時間。空爆が報じられたリビウを経由して、ターニャとケイトは南西部の街チェルニフツィに着いた。

そこでバスに乗り換えて、ルーマニアとの国境までもう1時間立ち続けた。ベビーカーを降ろしたところで2人の行手を阻んだのは、出国審査を受けるために並ぶ500人ほどのウクライナ難民だった。

生後2カ月の娘を連れて避難したターニャ(写真:筆者撮影)

「すみません、通していただけますか」

尾崎孝史氏によるウクライナのレポート、1回目です

寒空の下、3時間近く牛歩を続けるわけにはいかないと考えたターニャは、人波をかきわけ進んだ。避難先に決めたシュツットガルトまで、あと数日かかる。それでも前を向いて移動を続ける。

「この戦争はきっとウクライナが勝ちます。見知らぬ土地での育児は大変ですが、戦争が終わるまで2カ月でも3カ月でも避難しているつもりです」

(2回目に続く)

連載2回目記事:"戦場"キエフに留まる女性「死ぬ覚悟」を語る理由
連載3回目記事:民間人410人の遺体、キーウ周辺の人々が語ること
尾崎 孝史 映像制作者、写真家

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おざき たかし / Takashi Ozaki

NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わる。映画『未和 NHK記者の死が問いかけるもの』(Canal+)を監督。

著書に『汐凪を捜して 原発の町 大熊の3・11』(かもがわ出版)。『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)。写真集『SEALDs untitled stories 未来へつなぐ27の物語』(Canal+)で日隅一雄賞奨励賞、JRP年度賞。

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