瓦解したアベノミクス、解散した”真の目的” 消費増税先送りで財政膨張に歯止めなし

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安倍首相は追加の2兆~3兆円の補正予算を組むとし、商品券を発行、低所得者に補助金を出すなど、「消費刺激のための円安対策」のとりまとめを指示した。ならば円安・インフレ政策をやめればよい。矛盾した政策を繰り返す一方で、成長戦略関連の法案審議は、解散で先送りとなる。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、「来年半ばからインフレ率は高まるが、トレンド成長率は低いまま、スタグフレーション(不況下の物価高)の色彩が強まる。財政破綻を避けるため日銀による金利の抑圧が続き、インフレが加速して実質マイナス金利が拡大する。預金者にインフレタックスを課すことで、公的債務は圧縮へ進む」と見る。

なぜ解散は「今」なのか。会見で安倍首相は「税制において重大な決断をした以上」、「経済政策については賛否両論がある」ため、「国民の皆様の声を聞かなければならない」と述べた。これは言い訳だ。すでに3党合意の一角である、野党・民主党も延期法案を出すとしていた。あえて解散する必要はない。

解散の理由は、別のところにある。

目指すは集団的自衛権の行使

安倍首相は今年6月、集団的自衛権行使を可能にするため、憲法解釈変更の閣議決定を行った。実際の行使に必要な関連法の改正は、来年の通常国会で審議する予定だ。

クレディ・スイス証券の市川眞一チーフ・マーケット・ストラテジストは「6月の憲法解釈変更の閣議決定後、大手メディアの世論調査で、安倍内閣の支持率は大きく低下した。このテーマは国民に受けがよくない」とし、「今解散しなければ、15年半ばから世論は安全保障一色になり、円安進行による国民の痛みも増す中で、9月の自民党総裁選を迎えてしまう。今しかなかった」と解説する。

安倍首相が集団的自衛権の行使という、憲法解釈にかかわる重要な問題について、国民に信を問うことなく閣議決定を強行したのを、忘れてはならない。首相になった最大の目的はホームページに高らかに宣言されている。「戦後レジームからの脱却」であり、憲法を改正、第9条に「自衛軍の保持」を明記すること、と。

近い将来、日本の若者はインフレに苦しみ、日米同盟下で戦地に送られるのか。有権者の審判が下る。

「週刊東洋経済」2014年11月29日号<11月25日発売>掲載の「核心リポート01」を転載)

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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