「女の仕事と軽視」保育士語るコロナ禍の異常労働 住民のケア担う資格職なのに人手不足で低賃金

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町田にとってのコロナ禍は、2020年2月27日の安倍晋三首相(当時)による一斉休校要請から始まった。「感染防止のために休校を求めるなら、保育園だって休みにしないと」と思った。だが、職場は休園にならなかった。

町田は、その保育士生活の中で、大きな災害でも保育園は休まないことを経験してきた。学校は文科省の管轄下の教育機関だが、保育園は児童福祉法で「保育を必要とする乳児や幼児を保育する」とされる福祉施設だ。住民の福祉を支える意味から、休みには自治体の指示が必要だ。だが、コロナ禍でも休園の指示は来ず、現場にそぐわない要請が次々と降りてきた。

「三密」を避けろと言われたが、保育園は「抱っこ」「食事」と「密」の連続だ。保育士が子どもへの感染源になってはいけないと、保健所にPCR検査を求めたが、当初、検査はしてもらえなかった。子どもは重症化しにくいから休園しなくても大丈夫と言われたが、保育士は大人だ。感染したら重症化するかもしれない。

それでも危険業務手当などの保障はなかった。遊具を毎日、すべて消毒し、マスクもするように言われたが、2020年3月時点では消毒薬もマスクも入手しにくくなっていた。子どもが大切ならその手当が先なのに、と思った。

やがて、マスクや消毒液購入のためとして、国から保育対策総合支援事業費補助金が設けられた。だが、「定員60人以上の園で年間50万円」が最大だった。本当に必要なのは消毒する人手だが、この額ではパートを雇うこともできないと思った。

保育園は働く女性たちの命綱

2020年4月には東京都の緊急事態宣言が出て、感染防止のため仕事を休める保護者には児童の登園を控えてもらうよう要請があった。園児の数は激減し、保育士を休ませる園も出てきた。実質はコロナ休業だ。

町田の勤務先は、園と交渉して特別休暇が認められた。だが、自前の有給休暇や無給の休みで対応するよう求める園もあった。

2021年夏はデルタ株が拡大し、厚生労働省によると、8月時点で感染者が出て休園した保育施設は北海道、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、島根、山口、香川の10都道府県で165カ所、7月の10倍になった。

多くの自治体が登園自粛を求めたが、町田の周囲には、休むに休めない母たちの姿があった。「休んだら賃金が払われない」「休業助成金も申請してもらえない」「パートは休んだら雇い止め」という声が渦巻いていた。保育園はそんな女性たちの命綱だった。

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