性的少数者は韓国社会で20年間どう戦ってきたか ネットの影響から韓国軍兵士をめぐる訴訟まで

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2000年にソウルで始まったクィアカルチャー・フェスティバルは、今では大邱(テグ)、仁川(インチョン)、済州(チェジュ)など9つの主要都市で開催されている。

2020年には韓国で最も保守的な組織である国軍で、ピョン・ヒスという兵士がトランスジェンダー(男性から女性)であることを堂々とカミングアウトしたものの、強制的に除隊させられるという差別的な事件があった。不当な除隊処分を取り消すための訴訟を起こしたが、裁判はうまく進まなかった。結局、ピョン氏が自ら命を絶つという悲劇を招いた。

この事件は韓国社会に改めて衝撃を与えた。悲しみは大きかったが、人権活動家は彼女に対する処分取り消しをあきらめずに復職を求める訴訟を起こし、ついに2021年にトランスジェンダーであることを理由に強制的に転属させることは不当との判決を引き出した。ピョン氏の名誉は回復されたのだ。

文化芸術分野では変化が出てきた

遅々として進まない政界の変化と、宗教界が流布する嫌悪と差別は依然として根深いが、最近の韓国は文化芸術分野で多くの変化が生じている。カミングアウトした小説家の作品がベストセラーとなり、北海道の小樽を舞台に中年女性2人の同性愛をテーマにしたイム・デヒョン監督の映画『ユンヒへ』(ユンヒ・へ、ユンヒが女性の名前)が韓国で権威のある「青龍映画賞」で最優秀監督賞と脚本賞をダブル受賞した。

フェミニズム映画祭とともにクィア映画祭も毎年開催されており、美術分野でも性的少数者の作家の作品による展示会がコロナ禍にもかかわらず連日どこかで開催されている。ドラマでも性的少数者のキャラクターが登場する作品が、これまでと比べかなり増えている。

韓国と日本は近い距離にあるが、性的少数者の現状はかなり違う。今回、韓国の性的少数者人権運動の歴史を振り返りながら、日本の状況をも考えるきっかけとなった。最近の日本では、女子大にトランスジェンダーの合格者が出たことを契機に、全国の他の女子大にも同様の動きが広がっているという記事に接したことがある。

また、日本全国の多くの自治体が同性パートナーシップ制度を導入しているといった話を聞くと、とてもうらやましい。韓国もこのような変化を生み出そうと、多くの人たちが孤軍奮闘している。日本と韓国の性的少数者運動の交流が活発になることを願う。

併せて、筆者は同時代の痛みであるコロナ禍をともに克服し、東京プライドパレードに参加できる日を待っている。誰もが無事で健康でありますように。

(翻訳:福田 恵介)

(1日目第1回は男性に不満を持つ「韓国女性たち」の容赦ない本音

Holic(ヤン・ソヌ) 韓国性的少数者文化人権センター代表

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Sun-Woo Yang

ソウルで2000年から開かれているソウルクウィアカルチャー・フェスティバルの組織委員長も務める

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