円安はいいことずくめと思う人が気づかない視点 国民生活の圧迫だけでなく企業の為にもならない

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2010年頃に円高が進んだとき、この状況では日本経済は壊滅するという声が産業界から湧き上がった。

しかし、このときの為替レートは、最も円高になったときで1ドル=80円程度だった。

確かにこの値は、歴史的な円高と言える。しかし、円の実際の購買力を示すのは、内外物価上昇率の差を調整した実質実効レートだ。これでみると、このときが歴史的な円高であったわけではない。

2010年の指数は100だが、1978年にはすでに100を超えていた(指数の値が高いほど円高)。そして、1986年からは、4年間にわたって100を超えた。

円高に向かうスピードをみても、それまで1ドル=360円という固定レートに縛られていた円がフロートを始めたのは1973年のことであるが、1978年末には180円近くまで円高になった。

むしろ力強く成長した理由

それでも日本の産業は壊滅するどころか、むしろ力強く成長した。

それは日本の産業に活気があり、円高を克服していく実力があったからだ。そして、円高は、輸入物価を安くすることによって企業の原価を低下させ、付加価値を増大させたのだ。

経済に活力があれば、円高が経済活動を阻害することにはならないのである。

いま、冒頭で述べたように、円安に対する評価が変わりつつある。転嫁が難しい環境下で、企業にとっても円安が望ましくないことが認識されるようになってきたからだ。これは、大きな変化だ。

この変化をうまく使うことによって、日本経済の構造改革を進めることが期待される。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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