大罪人扱いからなぜ出世?「西郷隆盛」意外な変身 島流しからの復帰に尽力した大久保利通の胸中

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実は、西郷にとっても慶喜にとっても、これが初めての実戦だった。それにもかかわらず、2人の活躍によって、「禁門の変」はたった1日で鎮圧することができたのである。

期せずして戦地を同じくした、西郷と慶喜は何を思ったのだろうか。表向きは、健闘を称え合うこともあったかもしれないが、胸中では「油断ならない男だ」として互いに警戒したことだろう。

西郷が京で鮮烈な復帰を飾っているときに、大久保は何をしていたのかといえば、鹿児島にこもっていた。

幕府も朝廷もあてにならない今、いざというときのために、藩内の力をためておく時期だと大久保は考えたらしい。京は西郷に任せながら、大久保は足元を固めるべく、藩政改革に力を入れている。

西郷の価値観を大きく揺さぶった男「勝海舟」

そんなときに、大久保は西郷から1通の書状を受け取った。なんでも「打ち負かしてやろう」とある男と対面したところ、逆に言い含められて、頭を下げたのだという。

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「一体どれだけ智略のある方なのか、まるで見当もつかないように、お見受けした次第である」

西郷をそれほど感服させた男の名は、勝海舟といった。幕臣でありながら幕府を見限った男。それだけでも十分インパクトがあるが、勝の視野はあまりにも広く、西郷は価値観を大きく揺さぶられたようだ。また西郷は勝の紹介によって、土佐藩の坂本龍馬とも出会いを果たす。

西郷には、人を引き寄せる何かがある――。

実のところ、大久保もまた、西郷に引き寄せられた1人であった。少しずつではあるが、大久保は久光とは距離を置き、西郷とこの国の未来を考えようとし始める。一時は閉塞していた政情が、西郷の復帰によって、一気に動き出そうとしていた。

(16回につづく)

【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』 (朝日文庫)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

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