沖縄の感染爆発に見えた「日米地位協定」の泣き所 ワクチン過信の米軍クラスターと相手任せの外交

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しかも、後に判明したが、私の出産後も沖縄の感染者数は増え続け、緊急事態宣言が何度も延長される中で、アメリカ軍は昨年9月3日から本国出国時のPCR検査を中止していた。日本入国直後の検査もないまま、入国者の隔離期間も14日間から10日間に短縮。そのうえ、特定の建物への隔離から基地内隔離へと変わり、陽性者がマスクをせずに基地内のレストランや売店、娯楽施設に自由に出入りできる状態になっていた。

昨年12月17日に沖縄のキャンプ・ハンセンで70人の陽性者が出たことが発覚したのを発端として、全国のアメリカ軍基地でクラスターが発生しているが、在日アメリカ軍司令部は外出制限などの対応方針を各基地の司令官に一任し続けていた。同司令部が方針を出して、すべての在日アメリカ軍関係者に入国直後のPCR検査を行うことにしたのは12月30日。マスク着用を義務づけたのは翌22年1月6日で、その日の在沖アメリカ軍関係者の感染者数は162人、累計4027人。

クラスターは起こるべくして起きたことがよく分かる。時すでに遅し、アメリカ軍が沖縄に持ち込んだオミクロン株は日本人の基地従業員を経由して、爆発的な市中感染の一因となった。

日本側は在日アメリカ軍に水際対策を講じられない

日米地位協定第9条では、アメリカ兵、軍属に加えて一般人でしかない家族も含めたアメリカ軍関係者は日本入国時の検疫が免除される。アメリカ軍関係者はチャーター便でアメリカ本国や海外の基地から直接、在日アメリカ軍基地に入れるということもあり、日本側は在日アメリカ軍に対して水際対策を講じることができない。

沖縄県は1990年代から第9条の見直しを求めてきたが、想定されていたのは主にアメリカ軍関係者が持ち込む動植物の検疫だった。持ち込まれた外来種が沖縄の生態系を破壊したり、大麻など違法薬物の栽培につながったりしたからだ。新型コロナウイルスが登場するまで、アメリカ軍が感染症の拡大を引き起こす事態は想定されていなかった。

そのため、日本の水際対策を無視して自由に出入国できるアメリカ軍関係者が、日本よりもはるかに感染者数が多いのに、ワクチンの効果を過信してコロナ対策が甘かったアメリカの状況をそのまま持ち込むことになった。

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