先手対応に綻びも「第6波突入」岸田氏を待つ難題 米軍基地への対応では「外交的ミス」と批判の声

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安倍晋三元首相や菅義偉前首相の突然の退陣表明も「最大の要因はコロナ対応の失敗による内閣支持率低下」(自民幹部)だったことは明らかだ。だからこそ、岸田首相は「先手必勝で前者の轍を踏まない」(側近)との戦略で対応し、国民の一定の支持を得てきたのだ。

しかし、年明けの新たな事態が岸田首相を取り巻く政治的環境を急変させた。過去2年間を振り返っても、安定政権への命綱ともなる内閣支持率は、コロナへの対応を誤れば間違いなく低下の道をたどる。

やりすぎとの批判の中で国民の評価を得たオミクロン株での水際対策も、「米軍基地という大穴を塞げなかった」(防衛庁幹部)ことが沖縄などへのまん延防止措置適用につながった。

年末前から関係者の間で危惧されていた事態だが、岸田首相がアメリカのバイデン大統領に強いメッセージを伝える場面はなかった。外交的ミスと批判されるのは当然だ。

「まん延防止」「緊急事態宣言」は経済に大打撃

通常国会召集まであと10日。その間に東京、大阪を含めた複数の都道府県への「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」が発令されれば、上向き始めていた国内経済への打撃は甚大だ。岸田首相の提唱している新しい資本主義のカギとなる「分配」のための賃上げも一気に頓挫しかねない。

すでに感染症専門家の多くは「オミクロン株の感染力の強さから見て、第5波を上回る感染者数となる第6波の襲来は確実で、ピークは2月下旬から3月」と警鐘を乱打する。もちろん、国民の命に係わる死者数や重傷者数が抑制できれば、第5波のような医療崩壊は避けられるが、「今の時点では希望的観測」(官邸筋)にすぎない。

年末年始の地元広島への帰省もやめ、都内のホテルでつかの間の家族とのだんらんで英気を養った岸田首相は、年初の各種会合でもなお自信の笑みを絶やさない。事態の深刻化が目立ち始めた5日夜も自民党の中枢として政権を支える麻生太郎副総裁と遠藤利明選対委員長と高級焼き肉に舌鼓を打ちながら歓談したが、永田町では、「その余裕と自信はコロナ禍の脅威で風前の灯」(自民長老)との声が広がり始めている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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