日本の醤油メーカーがインドに熱視線を注ぐ理由 規制緩和で「本醸造しょうゆ」が販売可能に

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一方、中小企業ながらインドに熱い視線を向けているのは千葉県香取市の「ちば醤油」だ。

国際協力機構(JICA)の中小企業・SDGsビジネス支援事業(2019年度)に採択され、将来的には現地でのしょうゆ生産を目指している。コロナ禍のため事業はストップしていたが、「現地の人へのリモート調査を踏まえて今後2回ほど現地に行き、市場動向や現地生産の可否、工場に適した場所などの調査を行う予定」(飯田恭介社長)だという。

10年ほど前にインドを訪れたとき、飯田社長の目にはインドの料理関係者の料理に取り組む姿勢は極めて保守的に映った。しかし、その後インド中華の広がりをはじめ、現地の食文化に変化の兆しが表れている。

「世界の若者のマインドは基本的に共通している面がある。食も一緒です。インドでもいつかしょうゆが受け入れられる日が来るはずです」(飯田社長)

アフリカへの足がかりにも

最後に、貿易のプロはインド市場における本醸造しょうゆの広がりの可能性についてどう見ているだろうか。日本貿易振興機構(JETRO)農林水産・食品部主幹の石田達也氏に話を聞いた。

「今回の規制見直しがスタートラインですので、まずは現地における(輸出)環境の整備から取り組まなければなりません。スパイシーな料理を好む食文化とどう調和させていくのか。地元消費者から受け入れられるような利用法の確立が欠かせないでしょう。

先は長いですが、インド国内のみならずアフリカなど世界のインド人ネットワークを活かした横展開も考えると、大きなフロンティア市場があります。これまでの他国へのアプローチとはまったく違うやり方になりますが、中長期的に見れば可能性は十分ありますので、地道に取り組んでいくことが肝要だと思います」

コロナ禍の影響を除けば、2014年度以降6〜7%の経済成長が続いてきたインドでは、国民の所得水準も急ピッチで上がってきているという。それに伴い、今後も食のスタイルが多彩化していく可能性が高い。そんな巨大マーケットの14億人の胃袋を満足させるには、どこを攻めていけばいいのか。しょうゆ認知度アップに向けた試行錯誤の日々が続くキッコーマン。着実な販売拡大を図るヤマサ醤油。現地生産を見据えるちば醤油。それぞれのスタンスでアジアの巨大国に挑む。ジャパニーズしょうゆの本格的な挑戦は始まったばかりだ。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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