歓楽街だった西川口「夜のタクシー今や激減」の訳 かつては「人が来る場所」だったのになぜ?

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西川口や川口の街を歩いても確かに中華街に路上駐車している車はあるが、明らかな白タクのようなものは見当たらない。その理由を探るために、何度か西川口を訪れ、そのたびに運転手たちに話を聞いてきた。

それでもドライバーたちは、「中国系のお店の専門白タクくらいしか知らない」「管轄も違うから把握していない」と大半はその内情を把握していなかった。

そんな中でも、時折このあたりを走ることもある個人タクシーのドライバーはこう解説してくれた。

「チャイナタウンのあたりは総じて道が狭い。でも、彼らは白タクをその狭い道に堂々と止めている。一度注意したドライバーがいたけど、言葉も通じないからかトラブルになったこともあるんよ。警察に何度言っても特に何かするわけでなかった。

彼らの大半は成田や羽田をメインとした白タクで、アクセスが良く家賃が安いこのあたりを縄張りにしている。ごく一部はこのあたりの中国系のマッサージ店や飲食店の送迎を行ってるよ。でも、地場のタクシーとお客を食い合うわけではない。何をされるかわからないから怖いし、波風を立てたくないドライバーが多いんやと思うわ」

「商売上がったり」と嘆くドライバー

タクシードライバーは夜が更けるにつれ、駅周辺に集まってくる習性がある。だが、西川口は違う。日中は客待ちをするタクシーが動いていたが、夜20時を過ぎるころにはわずか2台のみとなっていた。

暇そうに談笑していたタクシードライバーは、「もう商売上がったり」と投げやりにこう話した。

「このあたりは台数こそ多いけど、21時過ぎるとまったく人が動かなくなるから。だから昔と違って、夜のタクシーはぐっと減る。中には深夜帯の営業を辞めた会社もあるよ。

川口市は人口が増えた、住みやすくなった、と言う人もいますよ。行政は税収が増えて、街の評価が上がっていい気分でしょう。でも結局は『臭いものに蓋』なだけで不満を持っている人も多い。

女性客の方を乗せると、『治安が悪いから夜は一人で歩けないのでタクシーを使う』という人もいるくらいだから。混沌としていながらも活気があった昔、一見落ち着いたように見えるけど表面上だけでトラブルも絶えない今。はたしてどっちがよかったのかね……」

タクシーに乗り込み、目的地である赤羽駅を告げると、運転手は「この時間に3000円くらいのお客さんを引ければいいほうですよ」と力なく笑ってみせた。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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