「遺言書と遺書は違う」意外と知らない相続の話 家族が集まる年末年始にこそ話し合ってみて

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どちらかといえば、被相続人の生前から財産をきちんと管理する契約であり、相続というより認知症対策という側面が強いかもしれません。また、ある程度の規模の財産がなければ、家族信託のメリットは十分に享受できないかもしれません。

遺言と家族信託、それぞれに特徴がありますが、詳しい人でないとどう組み合わせていけばいいかわからないでしょう。気になる方は一度、行政書士や専門家に相談されるとよいと思います。

公正証書遺言書の作成件数に変化

コロナ禍の影響もあったかもしれませんが、生前準備として遺言書を書くという行為は、一般的にはまだまだなじみが薄いことが、数字からも読み取れます。

というのも、遺言書のなかで最も確実とされる公正証書遺言書の作成件数を見ると、2020年は97700件。2017~2019年の3年間の作成件数は11万件台で推移していたので、やや少なくなっています(日本公証人連合会のデータより)。

実際、相続が発生して私のところに相談に来られるお客様に「遺言書はありますか?」と聞いても、「ある」と答える人は20人に1人くらいの割合しかいません。

親御さんの立場からすると、「うちの子どもたちにかぎって、相続でもめるはずはない」という気持ちがあるのでしょう。しかし実際に相続が発生すると、「やっぱり遺言書を書いてもらっておけばよかった」となることも多いものです。

遺言書がない場合は、法定相続人による遺産分割協議によって分割内容を決めることになりますが、ここで協議がまとまらないと家庭裁判所による調停、さらには審判となってしまいます。

まさに「相続」が「争族」になるゆえんです。

もう1つ、お客様によく言われるのは、「うちは自宅ぐらいしか財産がないから、遺言書なんて書く必要がない」といったご意見です。しかし、財産の多い・少ないと、遺産分割協議のもめる・もめないは関係ありません。特に相続財産が不動産しかない場合は、相続人の間で平等に分けることが難しく、かといってすぐに売却して現金化できない場合があるので、逆にもめやすいのです。

財産の多い・少ないにかかわらず、遺言書をきちんと作成しておく。これこそが、残された家族を「争族」にしないために何よりも大切な対策。この年末年始、あるいは帰省のタイミングで家族が顔を合わせたときに、一度話し合っておかれることをおすすめします。

加藤 健司 行政書士(OAG行政書士法人)

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かとう けんじ / Kenji Kato

愛知県出身。2015年に行政書士登録、OAG行政書士法人入社。以降、個人顧客を対象に500件以上の相続・遺産整理支援業務に携わる。また、葬儀社などにおける相続・生前対策セミナー、相談会も多数行っている。

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