東京タワーや通天閣「観光写真」開拓した男の人生 全国の観光地で写真撮影を手がける文教スタヂオ

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こうした変化を看過していては、これまでのビジネスモデルは崩壊してしまう。この過渡期に泰三から経営のバトンを引き継いだのは息子の泰成だった。父の泰三は強烈なリーダーシップでビジネスを開拓してきたが、子の泰成は「調整型」だった。全国の現場を回って社員の声をよく聞き、施設とも良好な関係を維持する中で、現場で編み出された新しいアプローチや技術を社内で共有し、新しいビジネスモデルを構築した。

テーマパークや動物園などでは施設の許可を得て特設の撮影ステージを設けて、そこでしか撮れない写真を提供する。また観光客が持つスマホやカメラなどをスタッフが預かり、それでも写真を撮ったうえに自社のカメラでも写真を撮り、気に入った人だけ写真を買ってもらう「シャッターサービス」も始めた。また撮影した写真はパソコンに取り入れ、その場で出力。オリジナルのフレームに入れて販売した。

新技術の開発にはフィルム、カメラメーカーも協力した。毎年莫大な量の写真を販売する文教スタヂオはこうしたメーカーにとって重要なパートナーなのだ。こうして、同社の観光写真は他の追随を許さないビジネスモデルとなった。

インバウンド客にも積極的にアプローチ

2010年以降、日本は「観光立国」へと大きく舵を切った。全国の観光地は「インバウンド(外国人観光客)」でにぎわった。文教スタヂオはインバウンドにも積極的にアプローチした。海外では観光地でグループで記念写真を撮る習慣がない国も多いが、スタッフは身振り手振りも交えて話しかけ、写真を撮影して販売していった。言葉は、引率してきたガイドから教えてもらったり、留学生をアルバイトとして雇うなどして、セールストークに磨きをかけた。台湾や韓国、中国などの観光客にはとくに好評で、観光ルートに組み入れられることもあった。

全国の観光地では、文教スタヂオ社員、スタッフのさまざまな生き方が見られる。沖縄県八重山諸島の由布島では施設から委託された水牛の飼育をしている。記念写真の「モデル牛」として預かっているのだが、身体を乾かさないように水をかけ愛情をもって世話をするのは同社の正社員だ。

由布島で水牛の世話をするスタッフ(写真:文教スタヂオ)

東京タワーでは、「東京の顔」「シンボル」としての品格を求められる。海外も含めた接客のレベルは非常に高く、ホテルのコンシェルジュに近いレベルだ。大阪・通天閣では吉本興業ばりの派手なパフォーマンスでお客を笑わせる社員がいる。このパフォーマンスを作ったのは吉本出身の社員だ。

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