日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由 国の賃金を決定的に左右するのは何なのか

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また、フランスは積極的労働市場政策にGDPの2.2%を費やしており、これはOECD25カ国の中で5番目に高い。フランスの非正規労働者は日本同様、労働時間の短縮や特定の手当を受けられない、正社員になるのが難しいといった多くの困難に直面している。しかし、フランスでは、明らかな賃金差別は問題の1つではない。

もっとも、労働不足の深刻化は労働者の交渉力を向上させるため、今後賃金をめぐるポジティブな動きが政治周りであるかもしれない。

パートタイム労働者も組合員になりつつある

従来、労働組合は「正規労働者のクラブ」のようなもので、多くの組合は、自分たちの雇用を維持するために、非正規労働者を不況時に解雇する「緩衝材」として雇う状態を好んできた。しかし、契約の適用範囲に関する法律上の制限が、一部の組合に非正規労働者を組織するインセンティブを与えている。

労働組合は、労働者の過半数を加入させなければ、残業など特定の問題について交渉する権利を失う。そのため、多くの組合は交渉権を維持するためにパートタイム労働者も組織に入れる必要があると考えているのだ。

2001年には、日本においてパートタイム労働者の組織化に積極的な組合はわずか14%だった。それが2010年には24%になったが、同時に69%の組合がパートタイム労働者の加入を明確に禁止していた。

2010年には、UAゼンセンという新しい産業別組合の連合体が設立された。2019年現在、加入する170万人の労働者の半数がパートタイム労働者である。 同組合は非正規労働者の賃金や、その他の条件の平等を求めて交渉しており、非正規労働者がいかに企業の効率化に貢献しているかを示す役割を果たしてきた。

2017年(最新の数字)には、パートタイム労働者が日本におけるすべての労働組合員の12%を占め、2005年の3倍に膨らんでいる。また、同じ年、連合(日本労働組合総連合)の組合員の16%がパートタイム労働者だった。

何百万人もの「臨時社員」が同じ会社で何年も働き、しばしば正規社員と同じ仕事をしていることを考えると、こうした人たちも一定期間働いた後に組合に加入できるように法律を改正する必要があるだろう。

1961年の時点で、GDPに占める労働分配率の長期的な安定性は単なる奇妙な偶然ではなく、マクロ経済の健全性の前提条件であることを経済学の正統派に確信させたのは日本の経済学者である宇沢弘文氏だった。今こそ日本の政治家はこのことに耳を傾けるべき時である。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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