リニアの強敵?「ハイパーループ」実現への着地点 音速長距離走行は無理筋、都市内移動が適切か

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現時点では有力視されるのは都市内移動や空港アクセスなどでの活用だ。その場合、移動距離がさほど長くないため、音速並みの速度は必要とされない。そのため速度を抑える一方で、気軽に乗れるよう利便性を高めるというわけだ。アラップは、ロンドンにある3つの主要空港を結ぶハイパーループシステムの可能性を検討、3つの空港間を高速移動することで、あたかも1つの空港であるかのように活用させることができるとしている。

開発状況についてはどのような課題があるのだろうか。アラップによれば、多くの事業者がハイパーループのチューブとポッドに注目して開発しているが「現時点で各々のシステムに互換性や相互運用性はまったくない」という。ポッドの浮上・推進方式、チューブ内の真空状態を保つ方法などがバラバラなのだ。「運用コンセプトとして明確なものにはなっておらず、これが駅や駅へのアクセス設備へのスケール感、サイズ、設備や列車の運用モデル、システム全体のコストなどに影響し、現時点でのコンセプトの不統一につながっている」。

「夢の技術」ではあるが…

現在、規格の統一に向け、欧州標準化委員会(CEN)と欧州電気標準化委員会(CENELEC)でハイパーループの方法論やフレームワークの定義・標準化について議論を行っているという。ただ、現状の規制の枠組みの中での議論だけに、なかなか進まないといった難点はあるようだ。

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チューブの敷設についても問題はないのかについて聞いてみたところ、「地上の支持構造物上に配置、浅い地下に埋設、大深度のトンネル構造内に敷設することになる。現時点で地上や地下にチューブを設置することについて技術的な課題はない」という説明があった。しかし、同じく技術的な課題がないはずのリニアも南アルプストンネルや大深度地下で工事が思うように進まないことを考えると、ハイパーループがこうした問題から無縁だとは言えないだろう。

多くのメディアや投資家がハイパーループを「夢の技術」としてもてはやすが、現実に当てはめると実現は一筋縄ではいかない。世界中に多くの候補路線があるが、最初に実用化されるのははたしてどの区間だろうか。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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