被災した鉄道の「全線復旧」に1年以上かかる事情 沿線で大規模な治山・治水工事が必要な場合も

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振り返れば、近年は自然災害によって被害を受ける鉄道路線がこれまで以上に増えた。

長野県のアルピコ交通上高地線。現在も一部区間で運休が続く=2021年7月(撮影:伊原薫)

今年8月の豪雨では長野県のアルピコ交通上高地線で田川にかかる鉄橋が傾いた。この復旧工事のうち、河川内での作業となる橋脚の交換作業は梓川の水量が減る冬季しか施工できないため、全面復旧は早くとも2022年夏までかかるという。

【2021年11月15日10時20分追記】アルピコ交通上高地線の被災箇所について、本文と写真のキャプションに誤りがありましたので修正しました。

また、前述の2020年熊本豪雨では、JR肥薩線もまた壊滅的な被害を受けた。被災は約450カ所にのぼり、復旧の方法すら見通せない状況だ。

そして、こうした被害の多くは鉄道会社だけで復旧工事や抜本的な対策を行うことが難しい。JR肥薩線の場合、球磨川の氾濫によって地形が変わり、元の位置に線路を敷き直すことができない区間もある。加えて、球磨川の治水計画をどうするかという問題もあり、こちらが決まらないことには前に進むことができない。

災害とどう対峙するか

同線の復旧について、JR九州の青柳俊彦社長は報道陣に対して「ゼロベースでの検討が必要」と答えている。ローカル線で大規模災害が起きた場合、費用面のみならず、どういうルートで復旧させればよいのか、さらには「この地に再び鉄道を敷く必要があるのか」といった根本的な部分にも関わってくる。

JR肥薩線の不通区間にある一勝地駅。この駅は奇跡的に被害を受けなかった(撮影:伊原薫)

これまでにも、地域住民の足となる地方ローカル線を国や自治体がどう支えるかといった議論は、あちこちで行われてきた。近年増えつつある自然災害との対峙は、こうした議論のさらに根幹、「日本の国土をどう守り、育てていくか」という話につながる。予算やマンパワーなどの優先順位はあるだろうが、脅威を増す自然とうまく共存するため、国や自治体が鉄道会社と連携し、対症療法ではない“安定した運行のためのインフラ整備”が必要な気がしてならない。

もちろん、その過程では「本当にこの路線が“鉄道として”必要かどうか」という存廃問題も議論されてしかるべきだろう。逆に言えば、存廃問題は収支や採算性だけで語られるべきではない。50年後、100年後に地域の、さらには日本のあるべき姿を考えながら、復旧に向け努力が続く各路線に適切な支援が行われることを願いたい。

伊原 薫 鉄道ライター

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いはら かおる / Kaoru Ihara

大阪府生まれ。京都大学交通政策研究ユニット・都市交通政策技術者。大阪在住の鉄道ライターとして、鉄道雑誌やWebなどで幅広く執筆するほか、講演やテレビ出演・監修なども行う。

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