HIS、わずか1年で2度目の「コロナ増資」に走る事情 背景には5年以内の神谷町本社買い戻し計画も

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それでは調達した215億円(手取りで214億円)は何に使うのか。うち115億円は仕入れや人件費、広告宣伝費、子会社への貸し付けなどの運転資金とする(支出予定時期は2022年4月まで)。また、49億円は社債の償還に充当する予定だ。

興味深いのは、売却したばかりの本社を買い戻す方針を明らかにしたことだろう。HISは調達資金のうち50億円を、5年以内の買い戻しに向けて積み立てる。外部への資金流出を軽減させる目的だという。

澤田会長は旅館再生や人材派遣、薄型太陽光パネルの販売、そば店などの新規事業について、5年以内に旅行事業と同規模まで育成する方針だ。写真は2019年のインタビュー時(撮影:今井康一)

そもそも、2020年の西新宿から神谷町への本社移転は、分散していた業務フロアの集約やフリーアドレス制の導入、働き方改革の実行などを狙った一大プロジェクトであると同時に、賃借料を削減する点も大きなポイントだった。

2019年の東洋経済のインタビューで、澤田会長は「お金だけ持っていても今は金利では稼げない。不動産なら物件さえきちんと買えば5~7%ぐらいで回る。近年は運用利回りを出そうとして不動産を買ったり、ホテルを建てたりしている」と、経営効率の観点から、「持つ経営」を重視する方針を語っていた。本社についてもこうした考えがベースにあるようだ。

当面は我慢の経営が続くか

国内は緊急事態宣言が明け、新規感染者数も激減した。今後、ハウステンボスの入場者数やホテルの稼働率も底を脱するとみられる。小規模ではあるが、昨年来注力してきた国内旅行の獲得も進むだろう。

ただし、業績の本格復活には収益柱の海外旅行が欠かせない。HISは今後の見通しについて、2022年から渡航制限が徐々に緩和され、旅行者数が段階的に回復すると読む。渡航先としてはまず、アメリカ本土やハワイ・グアム方面が立ち上がると想定している。2023年10月期は通期でコロナ前である2019年の水準まで回復する見立てだ。

今回の調達で一定程度の資本増強にメドをつけたが、海外旅行の明確な復活時期は見通せない。視界不良の中で財務基盤を固めつつ、どう復活と成長に向けた手を打つのか。しばらくは我慢の経営が続きそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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