中国「過去の共産党員ネタにした人たち」の末路 法改正で「ブログにコメント」でも禁固刑に

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中国版ツイッター、微博(ウェイボー)で250万人のフォロワーを持つ著名ブロガーの仇子明(38)も、起訴された1人だ。

仇は以前から存在した「騒乱挑発罪」を根拠に拘束され、新たな改正法によって起訴された。同氏が問題のコメントを投稿したのは、改正法が効力を持つ10日前であったにもかかわらず、だ。

5月、自白映像が国営テレビで放送された後、仇には懲役8カ月の判決が下った。

中国の歴史学者が学術論争や研究の対象にしてきた史実も、今では摘発の対象になっている。

元ジャーナリストの羅昌平は10月、ブログの投稿内容を問題視され、海南省で拘束された。朝鮮戦争に送られて死んでいった大勢の「志願兵」は本当に死ななければならなかったのかと、朝鮮戦争に介入した中国の判断に疑問を投げかる投稿だ。

プロパガンダ映画が規定する「絶対的史実」

羅の投稿は、「長津湖の戦い」と呼ばれる朝鮮戦争の戦闘を描いた新作映画が大ヒットしていることを受けたものだった。

映画『長津湖』は、アメリカが主導する国連軍を打ち負かした中国人兵士の私心なき自己犠牲を、お涙頂戴のシーンを交えつつ愛国心たっぷりに描き上げた2時間56分の大作だ。

「あれから半世紀経った今、あの戦争が正しかったのかどうかに考えをめぐらせる中国人はほとんどいなくなっている」と羅はウェイボーでつぶやき、「上層部の『賢明な判断』を疑わなかった」ために壊滅状態となった中国軍部隊に具体的に言及した。

政府の支援を受けて制作された『長津湖』は、国営メディアで大々的に宣伝され、チケット販売会社「猫眼」によると、中国の映画興行収入ランキングで歴代2位に浮上。公開から1カ月で8億5500万ドルの興行収入をたたき出している。

『長津湖』が公開された際、中国政策センターのニーは、長津湖の戦いを共産党がプロパガンダに積極利用することは、これまでには見られなかった現象だとツイートした。多大な犠牲を強いられたこの戦いは、戦略的な失態と見なされてきたためだ。ところが、映画では圧倒的な勝利として描かれている。かくして、この史実は共産党史観に新たに組み入れられ、もはや反論不可能な存在となった。 

=敬称略=

(執筆:Steven Lee Myers記者)
(C)2021 The New York Times Company

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