名ばかりのオンライン販売を始めたホンダの苦悩 ネット販売はこれから必須でも拭えぬ矛盾

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「オンラインでは、販売店のスタッフと対面しないで済むことがメリットだが、それは欠点にもなり得る。販売店で商談すれば、試乗車や展示車もあるから、車両の機能説明や質問にも簡単に応じられる。グレードを決めるときも、スタッフがカタログのページをめくりながら、お客様の要望を聞くことができる。オンラインではそのような自由度が乏しい」

これが意味することは、コロナ禍で広まったリモートワークを思い浮かべればわかりやすい。出勤する手間と時間は節約できるが、打ち合わせなどは面倒になった。オフィスに居れば、簡単に尋ねて解決できる問題も、リモートワークではメールや電話を使う必要がある。対面とオンラインは、分野を問わず一長一短だ。

クルマの売り方/買い方はまだまだ増える

今後は、さらにいろいろな形態が増えるだろう。例えばクルマの訴求方法は、以前なら新聞やテレビCMと雑誌の記事や広告に限定された。それが、今はメーカーや販売会社のホームページ、東洋経済オンラインのようなウェブサイト、各種のSNS、YouTubeのような動画サイトなど多岐にわたる。

一方で、雑誌の発行部数は下がっている。また、新聞やテレビCMが強い訴求力を備えた時代とは違い、ユーザーとクルマの接点は薄く広くなっている。媒体の薄利多売というべき状態だ。

クルマの売り方も同様で、残価設定ローンや税金などを含んだ定額のリース、カーシェアリング、オンラインストアなど、いろいろなスタイルを用意しておく必要がある。特定の売り方が急に人気を高めたときに、乗り遅れたら困るからだ。

ボルボは新型EV「C40 Recharge」について「オンラインで特別なサブスクリプション・プログラムのご注文受付予定」としている(写真:VOLVO CARS)

この事情はわかるが、既存の販売店を魅力的にする工夫も必要だろう。「Honda ON」の納車の仕方からもわかる通り、指定工場を伴った販売店を廃止することはできない。試乗して楽しく選ぶ価値もあるし、ほとんど知られていないが、ホンダの販売店で貸し出すレンタカーを生かして販売店へ集客することも考えたい。

あくまでも、リアルがあってのバーチャルだから。車はリアルに存在する物であり、生活をともにする道具である。だからこそ、バーチャルだけで販売するのはユーザーと販売店、双方にとって最善とはならないのだ。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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