もともと失言「インフレ率2%目標」に固執する暗愚 日本の「自然インフレ率」他国より低い1%以下?

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人間の経済活動を考えれば、なぜインフレ率を上げるのが難しいかよくわかります。買いたくて仕方がない人がたくさんいたとしても、日銀が買うためのお金を出さなければ買うことはできません。結果、需要は顕在化しないので、インフレ率は低下します。

逆にお金をふんだんに用意したからといって、買いたい気持ちが湧くとはかぎりません。故事にもあるように、「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」のです。

つまり、前者は強制力があって、後者は強制力がないのです。そういう意味で、金融政策は「pushing on a string」政策と言われます。紐を引っ張ると効果は出ますが、押しても効果が出ないという意味でしょうか。ちなみにこれは、ケインズが言った言葉とされています。

なぜいま、世界的にインフレ率が低迷しているのか

では、経済の専門家たちは現在のインフレ率が低い原因をどのように考えているでしょうか。アメリカ連銀の論文「Why Is Inflation So Low?」には以下のような要因が紹介されています。

(1) インフレ目標政策の成功

以前はインフレ圧力が強く、企業が価格の引き上げを考えていたかもしれないが、今は「中央銀行がインフレを抑えてくれる」と企業が考えるようになったため、価格を引き上げない戦略が一般化している。

(2)グローバル化

グローバル化が進んだことにより、特定の国の内部事情のみに反応してインフレ率が上がらない世界に変化した。

(3)インターネットの普及

インターネットの普及により、価格設定の透明性が高まり、価格競争が厳しくなったため、価格の引き上げが難しくなった。

(4)労働市場の変化

世界的に労働組合への参加率が低下し、労働者の賃金交渉力が低下したため、インフレ圧力が弱まった。

使用側の交渉力が強くなることをモノプソニーと言います。経済学者の間では、まだ完全なコンセンサスには至っていないようですが、特にアメリカでは最低賃金の低迷がデフレ圧力要因となっていると指摘されています。

(5) ICTによる生産性向上

労働生産性向上はそもそもデフレ圧力要因で、上がれば上がるほどインフレ率を下げる効果が高まる。

労働生産性の向上率とインフレ率の低下の相関関係も確認されています。

(6)人口動態がデフレ圧力となっている

人口増加は主に不動産価格上昇を通じてインフレ率を押し上げると、数多くの分析によって指摘されています。逆に、人口減少と高齢化はデフレ要因となります。

ちなみに、人口増加によるインフレ圧力より、人口減少によるデフレ圧力のほうが強いとされています。なぜならば、企業は需要の増加には相対的に早く対応する一方、需要の構造的な減少に対する反応は鈍く、供給の削減が遅れがちだからです。

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