「会社で働くしか稼ぐ手段がない」と思う人たちへ 知っておきたい資本家と労働者の関係

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佐藤:バブル経済というのは、1980年代の後半から90年代にかけての日本の好景気を指します。その頃の日本では、円高もあって海外からいろいろなものが入ってくるようになりました。一番分かりやすいのが「食」です。

シマオ:「食」?

佐藤:現代のように、あらゆるものを安く食べられるようになったのは、バブルの影響です。今でこそ、サイゼリヤに行けばパスタでもピザでもいろんな種類があるけれど、かつてはスパゲッティといえば、ナポリタンかミートソースくらいしか選択肢がない。いくらお金があっても、本格的なイタリア料理やフランス料理を食べることは、海外に行かない限りできませんでした。

今の日本人はかつての金持ちより「豊か」

シマオ:確かに、今はイタリアンでもフレンチでも安いものを探せばスーパーにでも売っていますね。

佐藤:好景気により、日本は海外からあらゆる文化を取り入れられるようになった。これは衣食住、すべての分野においていえることです。そういう意味で、今の私たちは、かつてのお金持ちの人たちよりも「豊か」だといえるかもしれません。

シマオ:バブルによって「豊かさ」が手に入りやすくなった大きな変革期だったんですね。

佐藤:でもその後、バブルは崩壊した。バブル崩壊後は、日本経済は落ち込み、世界的に見ても物価の上昇率は鈍くなった。それが現代も続いているんです。

シマオ:自分が労働者階級だと諦めて、頑張るしかない、か。

佐藤:諦めではありませんよ。見極めです。先ほどプロレタリアート(労働者階級) という言葉に触れましたよね。この「プロレタリアート」という言葉は、もともと古代ローマの国勢調査の財産区分で、「子どもしか持っていない人」、すなわち「他に富を生み出す手段を持っていない人」という意味なんです。マルクスはその言葉を流用して、十分な土地、預金、株などの資産がなく、自分が働いて得た賃金だけで生活する人々を「プレタリアート」と規定しました。工場労働者だけでなく、現代でいう事務職や営業職などのビジネスパーソンもプロレタリアートですし、どんなに高収入のコンサルタントだって雇われている限りはプロレタリアートです。

(イラスト:iziz)

シマオ:雇われの身はみんな囚われた労働者というとこですね。

佐藤:いえ。むしろマルクスは、プロレタリアートは「二重の自由」を持つと言っています。

シマオ:自由? 何でですか?

佐藤:一つは、労働者が自分の労働力を売ることができる「自由」。もう一つは、労働力以外の生産手段からの「自由」です。

シマオ:労働力を売ることができる自由と、労働力以外の生産手段からの……? すみません、もう少し詳しく教えてください。

佐藤:はい。まずマルクスはこのプロレタリアートの「二重の自由」を肯定的と否定的の両面で理解しました。肯定的な捉え方が「自分の労働力を自由に売る自由」で、否定的な捉え方が 「労働力以外の生産手段からの自由」です。

シマオ:いい面と悪い面があるということか。

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