コロナ禍「温室効果ガス5%削減」が意味すること ビル・ゲイツ氏が語るネットゼロへの取り組み

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もちろんそのほかに、科学や資金とはまったく関係のないハードルもある。とりわけアメリカでは、気候変動をめぐる議論は政治に足を引っ張られている。ときには、僕たちには何もできないのではないかという無力感に襲われることもある。

僕の考え方は政治学者ではなくエンジニアのものであり、気候変動の政治問題を解決する方法は僕にはわからない。したがって僕は、ゼロの実現に何が必要かという議論に焦点を絞りたい。世界の情熱と科学的知見を動員して既存のクリーン・エネルギー・ソリューションを展開し、新しいソリューションを発明することで、大気中の温室効果ガスを増やすのを止める必要があるのだ。

技術抜きでは解決は難しい

僕は、気候変動についての理想的なメッセンジャーとはいえない。世界には、壮大な考えを抱いてほかの人にやるべきことを指図したり、どんな問題でも技術で解決できると思いこんでいたりする金持ちがすでにたくさんいる。それに僕は大きな家を何軒ももっていて、自家用飛行機で移動しているし、実のところ気候変動会議に出席するときも自家用機でパリに飛んだ。こんな僕が環境について人に講釈を垂れることなどできるのだろうか。

こうした批判を僕はすべて受け入れる。

僕はたしかに自分の意見をもった金持ちで、それは否定できない。ただ、その意見はたしかな情報に基づいたものだと確信しているし、さらに多くのことを学ぼうと絶えず努めてもいる。

それに僕はテクノロジーのマニアでもある。問題を示されれば、それを解決する技術を探す。たしかに気候変動はイノベーションだけで解決できる問題ではない。しかし、技術抜きで地球を人間が暮らせる場所にしておくことはできない。それだけでは不十分だが、技術による解決策は必要なのだ。

最後に、僕の「カーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)」がとんでもなく高いのは事実だ。そして、それにずっと罪悪感を覚えてきた。僕が炭素をたくさん排出しているのはわかっていたし、本書を執筆することで、それを減らす責任をさらに強く意識するようにもなった。気候変動に懸念を示し、おおっぴらに行動を呼びかけている僕のような立場の者にとって、自分のカーボン・フットプリントを減らすのは最低限の務めだろう。

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