直木賞作家「サイボーグが書いた純愛物語に快哉」 相手に「忘れる」幸福を許さぬ「傲慢な愛」の本質

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私は、カルーセル麻紀さんをモデルにした『緋の河』(新潮社、2019年)を書きました。生きることの答えが欲しくて、そして、性転換のパイオニアとしての孤独を一心に背負った彼女を書くことで、物書きとして一皮むけたいという思いがあって取り組んだ作品です。

『緋の河』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

カルーセルさんの過去をしっかりおさえたうえで、ほとんどの話は、点と点とをつなぐように私が想像するという手法で、なおかつ主人公であるご本人が存命中にその物語を書くという試みでした。

カルーセルさんは「とことん汚く書いて」と言ってくださって、私は、いつ怒られてもかまわない、という気持ちで臨みました。

そもそもこういったことは、ご本人から許されたからできるわけで、普通は亡くなってからやることです。でも、私にとっては、いちばん読んでほしい人が、カルーセルさんでした。

ピーターさんの『ネオ・ヒューマン』を読んだ後は、『緋の河』が、カルーセルさんに宛てた壮大なラブレターだったような気がしました。

お互いを「生み合った」関係

私はカルーセルさんのことが大好きで、生き方を教えてくれた親のように思っています。生んでくれた親とはまた違って、私が自分で選んだ親です。

今の時代、実の親が子に教えられるのは、「死に方」ぐらいだと私は思っています。「生き方」を教えようとするから、面倒な親子問題が起きてしまうわけで、「死に方」さえ見せておけば、子はちゃんと生きていくものでしょう。

そんな中で、カルーセルさんのように、自分自身を生み直して、生きて、そして泣き言を言わず死んでいこうとしている人がいる。『緋の河』を書くことで、「よく生きる」ことへの思いが深まりました。

その感覚からピーターさんとフランシスさんを見ると、お二人は、「お互いを生み合った相手」ではないかというふうに見えてきます。

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