あなたを太らせる「塩、砂糖、脂肪」のワナ 味蕾の地雷、『フードトラップ』を読む

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本書では様々な食品会社がいかにスーパーの陳列棚の占拠を巡り、激しい競争を繰り返しているかが綿密に取材されている。アメリカの子供たちの朝食を巡り、ケロッグなどが激しいシリアル市場の攻防戦を繰り返し、ペプシコとコカ・コーラは「コーラ戦争」を戦う。商品の砂糖含有量はみるみる跳ね上がり、成分の70パーセントが砂糖というシリアルまで販売されている。もはや、それを朝食と呼ぶことができるのであろうか。

著者は加工食品の売り上げにおいてマーケティングがいかに重要かに気づきマーケティングの専門家にも多数インタビューを行っている。コカ・コーラ社はユーザーの新規開発と同じくらい重要なものとして、以前からコーラを愛飲しているヘビーユーザーの重要性にいち早く気づいた企業だ。ヘビーユーザーにもっとたくさんのコーラを飲ませる。そして、思い出に残る楽しい場面にコーラが常に存在するように、という点に多くの力を注ぎながら日夜マーケティング戦略を練っている。

食品業界の一部の人々も、高まる健康志向と自己の良心の呵責の末に、塩分、糖分、脂肪分の減少を模索する。しかし、彼ら良心派は常に亜流に止まる。熾烈な競争の中で、いかに利益を上げるかという重圧は業界の人々に常に圧し掛かる。著者の目は次第に彼らの出資者が集まるウォール街へと向いていく。

味蕾を刺激する地雷

本書は食品業界が流通させる、加工食品がいかに健康を害するかを論じた本である。一方で企業の歴史やマーケティング戦略といったビジネスに関する面を、内部資料の分析や業界人へのインタビューで非常に丹念に追っている。そのような視点で読めば、優れたビジネス書として読むこともできる。また、自由主義市場が求める利益が加工食品メーカーの良心を圧殺しているという視点を鋭く指摘している点も見逃せないと思う。

加工食品メーカーは出資者の求める成果を出すために科学者、心理学者、技師、マーケティングの専門家、デザイナーなどがあらゆる能力を駆使し、綿密に計算された商品を「設計」しているのだ。

これは肥満という現代の社会問題が個人の意思のみで解決しうるものでないことを如実に表している。我々はまさに味蕾を刺激する地雷に囲まれた日常を生きている。本書を読むことで、真実と情報を手に入れ、賢く懸命に振る舞える消費者になることが、自己と家族の健康を守る唯一の武器になるのではないか。そう思わせる一冊だ。

鰐部 祥平 HONZ

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1978年愛知県生まれ。10代の頃は中学3年で登校拒否、高校中退、暴走族の構成員とドロップアウトの連続。現在は自動車部品工場に勤務。気がつくとなぜかHONZのメンバーに。趣味は読書、日本刀収集、骨董品収集、HIPHOP。

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