怖い税務調査、「節税」策のここが油断できない 名義預金や賃貸不動産で目を付けられる箇所

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1:その預金のお金を出した人はだれか、2:その預金を管理している人はだれか、そして3:名義人に対し生前贈与が成立しているか、である。

1について。被相続人(親)がお金を出した預金であれば、預金の名義人(子)に対して贈与したものでない限り、被相続人(親)自身の名義預金とされる。このため、相続税の税務調査では、子名義の預金などについて、そのお金の出所はどこかチェックされ、それが親の口座から流れているのであれば、名義預金とされる可能性がある。

2について。相続人(子)名義の預金であるのに、その通帳を被相続人(親)が管理しているような場合には、親が自由にお金を引き出せるものとして、親の名義預金と認定される可能性がある。税務調査で重視されるのが、預金の銀行印の管理。銀行印の管理を親が行っていると問題になりやすいから注意したい。

3について。1で述べたとおり、名義人(子)に被相続人(親)からの贈与が生前に成立していれば、名義預金にはならない。ここで問題になる贈与の成立は、法律的には、「贈与者の贈与意思と、もらう者のもらう意思が合致していること」が要件とされている。意思は内心の問題なので、それを証明するのが難しい。贈与を証明する有効な方法としては、贈与契約書の作成、贈与税の申告を行っておくべきと言われる。

賃貸不動産による節税が「否認」されることも

贈与契約書は、WEB上に多くのひな形が無料で掲載されており、それを活用すれば簡単に作成できる。贈与税の申告では、あえて税金を納税する必要はないので、非課税範囲の110万円以内で贈与をし、その旨、ゼロ円の贈与税の申告をすれば問題ない。

名義預金の最も重要な対策方法は立証責任だ。名義預金の立証責任は税務署にあるとされ、被相続人の預金である立証が不十分だと、国税庁は課税できない。税務調査の際、この点をよく検討し、粘り強く交渉しよう。

最後に相続税対策をする方への注意点を申し上げたい。近年の事例だが、相続税対策の王道である賃貸不動産を使った節税策を、国税の税務調査で否認されたものがある。賃貸不動産を借金して買うと、賃貸不動産の評価額が低い反面、借金は相続財産から控除できて節税となり、この手法はどの本にも書いてある代表的なものだ。

こうした手法は王道中の王道なので、税務署が問題視することはまずないといわれていた。ところがこの事例では、”相続税対策による不動産購入”のために融資を申し込むといった書類が金融機関に残っていたことが決め手となり、国税庁から問題視されて多額の税金を追徴された。金融機関は資料をきちんと残す組織で、このようなリスクがあるから、今後は注意していただきたい。

松嶋 洋 元国税調査官・税理士

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まつしま よう / Matsusima You

2002年東京大学卒業。金融機関勤務を経て2003年4月に東京国税局に入局。税理士資格取得後、2007年退官。日本税制研究所に勤務し、税法解釈と研究に従事する。現在は、国税調査官、税法研究者としての経験を活かし、税務調査対策のコンサルタントとして税理士向けのセミナー・執筆活動を行う傍ら、税務調査に悩む納税者の代理人として税務署との交渉にあたる。著書に『それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい』(金融ブックス)、『押せば意外に 税務署なんて怖くない』(かんき出版)、『元国税調査官が暴く 税務署の裏側」(東洋経済新報社)などがある。http://yo-matsushima.com/ (HP)、https://www.facebook.com/motokokuzei(FB)

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