東大教授が教える「世界が求める頭の良さ」の定義 ネオヒューマンが示す「汎用的」な問題解決力

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「博士」とは、自分の専門分野以外のところに入っても、データベースさえあれば対応することができる、しっかりとした「推論エンジン」を持つ人のことを言うわけです。

つまり、専門性がものすごく高くて、1つのことだけを知っている「専門バカ」ではダメ。自分の専門分野はもちろん大事だけれど、その分野でなくても、自分の能力を発揮できる道を自分で発見し、問題を解くことができる。そんな方法論を総合的に身につけている人というのが、実は、「博士」の定義なのです。

特にピーターさんの学んだイギリスの大学では、そのような人材を育てる教育を行っています。しかし日本の場合は、専門の中では良くても、分野が変わればまるでダメ、という人がほとんどです。

日本はどうしても知識偏重で、「データベースを覚えなさい」というような勉強ばかりしていますから、問題解決のための推論エンジンが養われていないわけです。

私は大学で超小型の人工衛星を研究していますが、博士課程の学生には、その開発から打ち上げまで、基本的に任せきっているんです。請われればアドバイスはしますが、あくまで責任者は学生たちです。

これは、先ほどの「推論エンジン」を育てることを意識してのことです。衛星開発は、問題解決の連続で、答えはどこにも載っていませんから、すべて自分で考えなければなりません。

おまけに、エンジニアリングだけでなく、ファイナンス、法的な問題、国際交渉などのハードルもあります。それらを、なるべく口を出さずに学生にやらせています。

ピーターさんは、まさにそういった汎用的な問題解決能力、「推論エンジン」を持っている人物ですね。

「推論エンジン」は、これからの時代において必須の能力です。エネルギー、地球のリソース、温暖化。こういったことは、複数の分野を混ぜ合わせて考えられる人材が必要で、たった1つの分野だけに特化して解決できる問題は、もうほとんどありませんから。

闘い、成功した体験の積み重ねが自信をつくる

また、能力が高いだけではなく、これだけのことをまっとうする気持ちの強さ、気力のようなものも必要ですが、それが身についたのは、ピーターさんがずっと闘ってきたからだと思います。

彼は、小さい頃から、同性愛者であることを良く見られていませんでした。でも、たとえ差別があったとしても、自分のやりたいことを「絶対に実現したい」という強い意志があり、そのための闘いを、小さいころからくり返してきたわけです。

その結果、ある程度の成功体験を積み、社会からも認められてきたわけです。それは、彼にとって大きな自信にもなっているでしょう。

やればできるんだ、絶対に勝てるんだという「自信」は、何物にも代えられない強みです。これは、闘ってきたからこそ得られるものです。逆に、「自信」があるからこそ、闘える。

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