トヨタ、テスラと電撃提携、EV挽回に隠れた“真意”

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テスラの技術は未知数

ロードスターに積まれているのは、パナソニックの社内分社・エナジーから調達したリチウムイオン電池だ。しかも車載用の大型電池でなく、ノートPCに使われる円筒型の民生用電池である。EVの弱点だった充電1回分の走行距離では、380キロメートルとガソリン車並みを確保。これはコストの安い小さな電池を6800個も並べたためで、開発思想が自動車メーカーのEVとは、根本的に違う。

「多くの電池をつなぐ技術にテスラ独自の発想や手法がある」とトヨタ幹部は評価する。ただトランク下に大量の電池を積めば、重量は重くなり空間も狭くなる。12年量産の「モデルS」は走行距離などで進化し、価格も500万円以下とされるが、普及レベルに達したとはいえず、テスラの技術力も未知数だ。

今年末にもEVを発売する日産自動車などに比べ、12年投入と出遅れていたのがトヨタ。「これですぐにキャッチアップできる」と礼賛するにはやや早計かもしれない。

「わざわざトヨタの社長が米国で会見したのは政治的な要素もある」。そう指摘するのは自動車情報誌『ニューモデルマガジンX』の神領貢・編集長だ。

年内、早ければ6月にも、テスラは米国での上場を控えた身。独ダイムラーに続き、「世界のTOYOTA」の後ろ盾を得たのは、株価形成にまたとない好条件だろう。

一方のトヨタにしても、EVの生産でNUMMIが活用されれば、雇用や納税で地元に貢献できる。閉鎖で一時解雇された4500人のうち、1000人近い元従業員を再雇用する構想もある。折しも提携発表当日は、トヨタのリコール問題で米議会下院の公聴会が開催された日。トヨタ・バッシングの再燃を緩和する効果として、今後も決して小さい材料とは言えない。

自動車業界の巨象とアリとが手を組んだ、今回の電撃的提携。生産や技術といった「本筋」の部分とは別に、その“副次的効果”にも目を向ける必要がありそうだ。

■トヨタ自動車の業績予想、会社概要はこちら

(大野和幸、ジャーナリスト:Ayako Jacobsson(在サンノゼ) =週刊東洋経済2010年6月5日号)

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