「すり替え作戦で育児」双子パンダ誕生の舞台裏 育児放棄も起きる「簡単ではない」子育て事情

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具体的には、1頭(「子1」と呼ぶ)をいったん人が取り上げて保育器で育て、その間にもう1頭(「子2」と呼ぶ)をシンシンに育ててもらう。その後、シンシンから「子2」を取り上げて保育器に移し、保育器にいた「子1」をシンシンに戻す。これを繰り返す。つまり、赤ちゃんを入れ替え(すり替え)ながら、シンシンに2頭を交互に育てさせるのだ。

この手法を使えるように、上野動物園のパンダ舎の産室は、檻のすき間から人が手を入れて、赤ちゃんを取り上げられる構造にしている。

ただし、赤ちゃんを取り上げるのは簡単ではない。母親が抵抗する場合もある。飼育施設によっては、母親の好物を与えて気をそらした隙に、サッと赤ちゃんを取り上げることもある。

2頭とも母親に育てさせる

上野動物園では、6月23日の出産後、1頭を取り上げようと職員が狙っていたら、3時10分にチャンスが巡って来た。シンシンが赤ちゃんをくわえようとして、うまくいかず、「子1」を床に置いたのだ。飼育職員は、檻のすき間から手を入れて「子1」を拾い上げ、保育器に移すことに成功した。その際に体重もはかった。

保育器に入れた赤ちゃん(写真:公益財団法人東京動物園協会提供)

「子1」の体長は13.4cm、体重は124gで、生まれたてのパンダの平均体重である100~200gにおさまっている。平均とは言え、母親の約1000分の1だ。

「子2」の体重は、シンシンが抱いていて、取り上げられなかったため、6月23日時点でわかっていなかった。だが、6月24日に取りあげることができて、初めて計測。体重は146g、体長は15.0cmで、まったく問題ない大きさだ。育児放棄するパンダもいるが、しっかりと赤ちゃんを抱いているシンシンは愛情深いパンダのようだ。

しかもシンシンは出産後、何も食べずに赤ちゃんを夢中でお世話していた。これは野生のパンダにも見られる行動だ。妊娠前のシンシンは食欲旺盛で、時には園内に生えた芝やイネ科の植物までむしって食べていたが、妊娠中は、その兆候として食欲が落ち、竹を食べる量は通常の4分の1ほどに減っていた。出産後、初めてとなるエサを食べたのは6月25日の朝。タケノコを3本あげたところ、すべて食べた。

6月24日午前1時30分、「子1」と「子2」を入れ替えることに成功。シンシンが職員にお腹を向けて休んでいるときに手を入れて、「子2」を取り上げた。6月25日の午前3時10分には、再び2頭を入れ替えた。

赤ちゃんの入れ替えという面倒なことをしなくても、パンダ向けの人工乳を与えながら、1頭をずっと保育器で育てることも不可能ではない。だが上野動物園は、母乳を飲ませるのが一番良いと考え、この飼育に挑む。人が積極的に介在して双子を育てるため、今後、短くても2カ月ほどは、職員が24時間体制で対応する見通しだ。

シンシンが授乳したかどうかは、6月23日時点で確認できていなかった。パンダの母乳は免疫を作る成分を含む。赤ちゃんは、初乳を飲めないと危険とされる。パンダの母親は赤ちゃんを抱いて、胸部と腹部にある計4つの乳房から母乳を赤ちゃんに飲ませる。シンシンが抱いて、赤ちゃんが隠れてしまうので、授乳はなかなか確認できない。

だが上野動物園は6月25日午後、「2頭の子どもはどちらとも、活力や体重、便の状態から母乳を飲めていると判断しています。どちらも健康状態は良好です」と発表。パンダファンは胸をなでおろした。上野動物園によると、2頭の子どもは、シンシンに抱かれているときは乳房から、保育器内ではシンシンから搾乳した母乳を獣医師から与えられて、飲んでいるそうだ。

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