日本の「経済成長一辺倒」に致命的に欠けた視点 「SDGs」を声高に叫ぶ日本に欧州で覚える違和感

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高松:それでも変化もあるとお考えですか?

広井:はい。SDGsなんかが日本でも言われるようになりました。それに世代交代も加わる。GDPが増えれば豊かになるということに違和感を持つ人が増えてきた。

高松:若い世代に、そういう人は多そうですね。

広井:定常型社会という言葉を使うかどうかは別として、企業もこれまでの延長ではやっていけなくて、かなり発想転換が必要と考える人も増えているように思います。

高松:近年、資本主義に対する批判も出てきています。

広井:それに加えて、アメリカの中での分断の問題、トランプ現象、環境も含めていろんな議論が出てきています。

高松:そうですね。

広井:私の印象では、ここ2、3年、SDGs的な流れもあって、だんだん定常型社会のような発想が出てきているように感じています。もっともドイツなどは、冒頭おっしゃっていたように、すでにやっていることなんですけど。

時代の変化、人々の価値観の変化

広井:人間の意識とか行動様式というのは最初から決まっているものではなくて、時代や社会の中で形成されるものであると考えています。

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高松:「共同主観性」とおっしゃっているものでしょうか。ドイツにもよく似たものに「時代精神」という言葉がありますね。その時代に、普遍的と思われる価値観を作る、不可視な力とでもいいますか。

広井:俗な話ですが、例えば、団塊世代と呼ばれる人たちは集団で行動する傾向がある。しかも例えば飛行機に乗った場合、着陸したとたん、われ先に席を立って飛行機から降りようとする。それは彼らが、もともとそうだったというより、そういう時代の中で生まれ育ったから、そういう行動を取らねば自分は取り残されるという発想になるんでしょう。

高松:そうでしょうね。

広井:ここで、あえて希望を持つとすれば、例えば学生や若い世代を見ると、もうちょっと個人の自己決定や、ゆとりある生活を好む。「カイシャ」人間になるというより、もう少しプライベートな時間を大事にする。そういう傾向が日本でも出てきているように思えます。

高松:定常型社会、SDGs、全体最適の分散型都市づくりなど、ポスト「経済成長一辺倒」のキーワードはそろってきています。こういったものが個々人の行動様式に結びつくかどうかがカギですね。ありがとうございました。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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