「経営者の報酬」を減らして最低賃金を引き上げよ 衝撃!「中小企業の労働分配率80%」に潜む欺瞞

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「最低賃金を引き上げると、失業者が増える」と言う人がいますが、その考えはすでにビッグデータの分析によって明確に間違いであると否定されています(最低賃金「引上げ反対派」が知らない世界の常識)。

注:縦軸にサンプル数など「分析の確からしさ」を、横軸に「最低賃金の引き上げが雇用の機会と労働時間に与える影響」をとり、世界中で行われた1451の分析をプロットしている。
出所:The impact of the National Minimum Wage on employment, by Marco Hafner, Jirka Taylor, Paulina Pankowska, Martin Stepanek, Shanthi Nataraj and Chris van Stolk, 2017

メタ分析を行ったほとんどの学術検証は、最低賃金の引き上げは既存の雇用には影響しないと確認しています。さらに、より多くのデータを使って、より正確な分析結果が期待できる論文(グラフの上部に分布)ほど、既存の雇用への影響がゼロに集中しています。

一方、最低賃金の引き上げによって、業種間の労働者の移動が起きることは確認されています。つまり全体ではなく、特定の属性だけを見れば、就業者が増える場合も減る場合もあります。こういった分析は自ずとデータの量が減りますので、分布の下に位置します。

減少する部分だけを見れば、「最低賃金を引き上げたら失業が増える!」と言えるし、プラスの影響を受ける部分だけに注目すれば、「最低賃金を引き上げたら雇用は増える!」と言えます。しかし、客観的な分析をすれば、減少した分は他の部分の増加によって吸収されるので、経済全体で見ると既存の雇用への影響はほとんどありません。

「韓国では経済がメチャメチャになった」という俗説

十分な検証がされていない理屈で反論をしてくる人は、韓国の事例を引き合いに出します。しかし、韓国の例で見ても、最低賃金を大きく引き上げた直後に増えた失業者は、実は毎年見られる季節性の失業でした。例年のとおりすぐに落ち着き、半年で元の水準に戻りました。雇用への影響はなかったのです(最低賃金「韓国の大失敗」俗説を信じる人の短絡)。

韓国の最低賃金の引き上げは経済政策として失敗だったと言われていますが、2019年には韓国の労働生産性は初めて日本を上回り、2020年には全体の生産性も日本を上回りました。

2021年には、韓国の1人当たり購買力調整済みGDPがさらに上がって、世界25位になると予想されています(日本は27位)。

最低賃金の引き上げだけが、韓国の生産性を25位にしたとは思いません。それでも、最低賃金の大幅な引き上げが韓国の経済をダメにするという予想が外れていたことは間違いありません。

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