ザラ、メキシコ政府に「文化の盗用」指摘された訳 民族衣装の利用に対して説明を求める書簡

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ロイター通信によると、ザラを運営するインティデックスはロイターの取材に対して、「指摘されたドレスのデザインについて、意図的にメキシコの(先住民族)ミシュテカの人々の民族衣装を模したり、影響を受けたりした事実はまったくない」と文書で回答している。

メキシコの民族衣装(左)と、パトールの商品(右)(写真:メキシコ文化省のホームページより)

文化省が盗用を指摘するのは、これが初めではない。2019年6月には、世界ファッション界で著名なベネズエラ出身のデザイナー、キャロリーナ・ヘレナ氏の新作コレクションに対してクレームをつけている。この作品の中に、メキシコ民族の伝統服から盗用したものがあるとして、同氏とクリエイティブ・ディレクターのウェス・ゴードン氏の両氏宛に書簡を送り、模写した根拠についての説明を求めていた。

スペインメディアによると、ゴードン氏はメキシコ文化省に対して、メキシコを旅行した時に素晴らしい民芸作品に魅了され、それを新しいコレクションの中に加えてすばらしい文化遺産を世界的により価値あるものにしたい、といった回答を送ったという。そこには模写したことへの謝罪は一切なし。逆にそれを世界に広めたい、という意向を示したのである。

一方、BBCによると、フランスのデザイナー、イザベラ・マラン氏は昨年11月、メキシコ文化省による「盗用」の指摘を受けて謝罪。「盗用しているという認識は全くなかった」とした上で、「(メキシコの)民芸品のプロモーションをすることで、こうした手仕事に対する尊敬の念を払いたかった」としている。

民族衣装の知名度を上げるきっかけになる?

実際、どちらが最終的に先住民族の利益につながるかは判断が難しいところだ。ザラのような大手企業の場合、大量生産品のため、実際の民族衣装よりずっと安価で販売できる。仮に先住民側がネット販売しても価格で対抗できないことは明らかだ。

メキシコの民族衣装(左)と、アンソロポロジーの商品(右)(写真:メキシコ文化省のホームページより)

一方で、ザラなどのメーカーを通じて商品のデザインのルーツとなった民族衣装が世界に知られるようになれば、これを機に「本物」が欲しいという消費者が出てくる可能性もあるだろう。

もちろん、大量生産品と手仕事品を同じ土俵で比べることには無理があるが、同じ土俵で戦った場合、手仕事のため価格が高く、販路もかぎられている先住民族の民族衣装が何らかの影響を受けるのは避けられない。また、最終的に先住民族への経済的メリットがあるとしても、無断で盗用するというのはモラル的にどうなのか、という議論もある。

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